夏は至りて秋も立つ
この間まで、部屋の中で一瞬クーラーを止めただけでも、汗が止まらなくなったのに、昼の日中にお昼を食べに外を歩いていて、「風が涼しいな」と思った。
今年の夏は何度か海も見たし、プールでも遊んだし、だらだら汗をかきながら瓶のままビールを呑んだし、頭をきーんとさせずにかき氷も食べきった。もともと花火にはそんなに興味がないことを思えば、ずいぶんと夏らしいことをした夏だった。
そうして、もう暑さにげんなりしていた頃だったのに。
風が涼しいと感じた瞬間に、取り返しのつかない気持ちになった。
夏のずるいところは、この「取り返しのつかない感じ」だと思う。他のどの季節も、もう少しなにかできたはず……とは思わないのに、夏だけは必ず考える。それはどれだけ実際に楽しんだかどうかとは関係ないのが、またふしぎなところだ。
今年の夏は、たしかにもうたいがい遊んだはずだ。
7月の連休には、数年越しで念願だった鎌倉を訪れた。近くていつでも行けると思っていたら、びっくりするくらい行かないまま年月が流れていた鎌倉。
朝早い電車に乗って、朝ごはんを食べ、海を見て、お昼ごはんを食べて帰ってこようという元気があるのかないのかわからないプラン。
早く出たかいがあって、ほとんど並ばずに海沿いのパンケーキ屋さんで、ぜったいに間違いないパンケーキを食べられた。
ふわとろのパンケーキ自体にほぼ甘さがないので、しっかりメープルシロップをかけて。ちなみに、添えられたハニーコームバターが悪魔的においしくて、これだけ永遠に食べられそうなくらい。
メープルシロップがあまり得意ではない恋人は、ハードなパンに苦戦しながらオープンサンドイッチを食べていた。
アボカドとコリアンダーがこぼれんばかりに載っていて、その上からぎゅっとライムをしぼって食べるやつ。塩コショウをして、追加で注文したポーチドエッグの黄身を割って。
追加のポーチドエッグ分、おなかがいっぱいになったよう。それにしても、サンドイッチにライムをしぼるのっておいしいんだなぁ、と一口もらってびっくりした。
朝ごはんを食べ終わっても、まだ7時半過ぎ。
そのまま、目の前の砂浜に出ると、そこはもう完全に夏だった。
サーフィンをする人たちがメインなので、人はたくさんいるけれど、砂浜にはまばら。
故郷の海と同じ感覚で波打ち際を歩いていると、びっくりするくらい強い波に、ワンピースの裾あたりまで、あっという間に濡らされる。
満足するまで波に乗る姿を見て、そろそろ行こうかと階段を登っても、まだ9時前。あっという間に、ミッション2までクリアしてしまった。
せっかくなので、ぼんやり江ノ電に乗って、あじさいの名残を見に行くことに。
もともと、鎌倉に来ようと最初に約束したのは、数年前のあじさいの季節で、それがいざその日になってみたら、雨と頭痛のせいで流れてしまって以来、すっかりなんとなくタイミングを逃して、2018年まで来れずにいたので。
咲いていないならいないで、と言い合いながら、小さな電車に乗った。
寝そべる幸福
暖かい日が続いて、今日は夏日。
そんなびっくりするくらい気温の高い4月の半ばに、我が家には上京して以来、ずーっと避けてていたラグが届いた。
というのも、外から帰って靴を脱ぐと、いまだにひんやりするくらい床が冷たくて。
この家に越してきたのは暑い時期だったので、それが気持ちよかったけれど、冬は足元から冷えるので、ちょっと困っていた。
スリッパを履いたり、靴下を履いたり……といろいろ対策をして、何年目かの冬を乗り切ったはずが、最後の最後で我慢できなくなってしまった。
本当は電気カーペットがほしいくらいだったのに、ずっとしぶっていたのは、ひとえに掃除が大変になるのが嫌だったから。そして、なんだか敷物がある床が実家っぽくて、それもあんまり好きじゃなくて。
でも、いざ敷いてみると、もはやなかったときの生活が思い出せないくらい快適だ。
クッションとブランケットを片手に腰を下ろすと、今までただ歩くだけだったスペースが、急にちゃんと部屋になってびっくり。
ネイルを塗り直したりだとか、そういう細かなことがとても快適になってうれしい。
同じ日に、22; marketの宅急便も届いたので、写真もカーペットで撮ってみた。
随分前に買ったのに、ずっと届かないな〜と思っていたけど、ご本人のお誕生日に届いたせいで、すべて許した。しょうがない。今日届くために待っていたと思えば、ぜんぜん遅くない。
ちなみに、これは商品ではなくて、ノベルティ。
中身はランダムでいろいろあるみたいで、わたしはステッカーだった。
なんやかんやで、おしゃれな他の3つよりもチェックモチーフのアホねこがうれしいあたり、ヲタクを抜けるのはなかなか難しい。
みーおんが最近インスタに上げていたお守りもかわいかったなー。
買ったのはブラック&ピンクのフーディー。
前回のNO PANTIESとのコラボスウェットとhomiesのスウェットが、とっても暖かくてかわいかったので、今回は、前回迷って買わなかったフーディータイプで、新作のパーカーを追加してみた。
これがとってもかわいくて。
肩が落ちているラインとか、そのまますとん長めに着たときと、まくったときの両方でかわいく見える袖のたっぷり感とか。小嶋さんはパーカーを作る天才なのでは……と思いながら、早速くつろぎ着にしている。
さて、本題に戻ってカーペットの話。
危惧していた掃除のしにくさに関しても、とっても薄くて軽いので、普段の掃除だけで気になったらすぐに洗えばいいかな、という感じ。思ったよりもストレスがなさそう。
色も、濃いブラウンなので、実家感も出ずに気に入っている。カーペットの実家感は、主に柄のせいなんだなー。
それにしても、昔狭い部屋に住んでいたときは、白い家具ばかり集めていたけれど、この家に越してきてから、家具を置いても置いても余白があるので、深い色の家具が増えてきた。
中途半端な気がして、いわゆるナチュラルは、いまだにほとんどないけれど。
日々暮らしていると、もうこれ以上、「家」にはならないと思うのに、新しい家具やファブリックが増えると、毎回きちんと更に家になることに驚く。
最初は梅雨を越したら片付ける気満々だったけれど、夏にクーラーをつけながら、寝そべるのもこっそり楽しみだったりする。
春から夏へのグリーン
月曜日。
珍しく人間らしい時間に帰れたので、書店によって、昨日買い逃していたことを半年遅れ(!)で知った『きのう何食べた?』の13巻を買って帰宅。
これから帰る旨伝えた我が家では、鮭のちゃんちゃん焼きがホットプレートの上で出来上がっていた。
この間、はじめて作ってもらったのがおいしくて、また食べたいとリクエストしていたもの。平日にホットプレートって、なんだかおやすみみたいで高まる。
ごはんが出来上がる合間に、既に回っていた洗濯物を干して、それでも時間が余って、洗面台の石けんを新調した。
正方形の大きな石けん。ずっと使えずにいたのだけれど、やっと使えるのでわくわく。
鈴蘭の香りがさわやかなこの石けんは、もみじ市で購入したもの。SAVON de SIESTAさんというところで、悩みに悩んでこれに決めた。
ホテルの部屋のナンバーみたいに、数字が入った定番のものもかわいかったのだけれど、個人的には手を洗う度にいい香りでリフレッシュできるのが理想なので、香りがしっかりしていたこちらに。
かわいいイラスト入りの包装紙をむくとでてきたのは、とってもきれいな乳白色とグリーンのマーブル。
いつかミントの香りのするクリアな石けんを使ったときも思ったけど、春の終わりに使うグリーンは、初夏を感じさせてとっても気持ちいい。
コンタクトを新調したり、ウォーターサーバーのお水を入れ替えたり、歯ブラシを新調したり。そういう日常の小さな更新をたくさんした週末だったので、月曜日にずっと気になっていたちびた石けんにもお役ごめんできて、とてもすっきりした気持ち。
しかし、今調べたらだいぶ前過ぎてちょっと反省。そういうものがたくさんある。せっかくだから、早め早めに使い切る生活にしよう。
でも、石けんってついつい旅行に行くと買ってしまうので、既に何個かストックがあるんだよなぁ……。同じものを集めすぎないようにも気をつけなくちゃ。使い切れないのは結局買わないよりも悲しいということは、いい加減、身にしみているのだから。
はじめてのSTAUB生活
昨日の晩ごはんは、予定通りカマンベールをまるごと1個のっけた、チキンと野菜の蒸し焼き。
のっけた予熱でとろとろになって、完全に即席チーズフォンデュだった。
何はなくとも、チーズがあれば。チーズって天性的においしい。
常温のものはあんまり食べないけれど、温めてとろけたものは完全に好物。このカマンベールは、温めなくても既にとろっとしてるので、最近気に入ってずっと食べている。黒胡椒をすれば、一瞬でビールが飲みたくなる味に。
1回使い始めてから、飽きずにずーっと野菜を蒸し続けているSTAUBを使って。
一年くらい前に妹の新居に行ったときに、ブラックのものを使ってお鍋を作っていて、そのときたいへん熱烈におすすめされたのだけれど、使っていたお鍋が壊れるまですっかり忘れていた。
色はブラックと悩んで、最終的にパット見で惹かれていたグレーに。
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サイズは14cmと小ぶりなサイズ。
今メインで使っているものの生き残りが18cmなので、同じサイズではなく、大きいのか小さいのかがいいと思っていたのだけれど、重さに怖気づいて、まずは小さいサイズにしてみた。
届くとこじんまりとしたサイズで、それでも手持ちのどんなお鍋より重いので、STAUBデビューとしてはこれでよかったかな、と。
自炊のハードルが低いわけではないので、これ以上重いと、1回使うまでにけっこう時間がかかりそうで。
すぐに取ってしまったけれど、トリコロールのリボンがかわいい。
天気のいい土曜日にしっかりシーズニングをして、翌週ようやくおろした。
ちょうど新玉ねぎと新じゃがいもの時期なので、オリーブオイルと塩胡椒をして。最初強火で、すぐに弱火にして、しばらくしたらコンロの火を切って放置。それだけなのに、これは確かに野菜が積極的に食べたくなるおいしさ……。
その後、いろんな野菜を入れてみたけれど、やっぱり玉ねぎとじゃがいもがいちばん感動が大きいかな。
ふだんはあんまり食べないかぼちゃも、感動的においしかった。
野菜からびっくりするくらい水分が出るので、ちょっとたっぷりめにオリーブオイルを引いたら、お水は一切入れずでOK。
休日なので、ニンニクも落としたら、完全においしいソースになって、今日はカンパーニュですくって最後の1滴まで食べ尽くした。
肉料理もおいしくできて、特にハンバーグは、味付けは少しの塩胡椒だけで、何のソースもいらないくらいおいしくできる。煮込みにしてもぜったいにおいしい。
ブラックだけ、ノブがゴールドなのがやっぱりかわいいし、ハンバーグを2ついっぺんに焼きたいがために、大きなサイズを買い足そうかなと思っている。今年買ってよかったもの、今のところ暫定1位かもしれない。
バターと小麦粉と生クリームと
ここ何週間かずーっとばたばたしていた割に、数年ぶりにオーブンで焼き菓子なんかを作る土日が続いている。
しょーもない金曜日を過ごして、土曜日の明け方に帰ったとき、眠らずに焼いたスコーンがびっくりするくらいおいしくできて。プレーンなものがしっかり焼けたので、次の週はココアを練り込んだものを作った。
10時くらいからせっせとしこんで。
1回目は、水分を生クリームにしたのだけれど、2回目はヨーグルトにしたら、思ったよりも生地がゆるくなってしまって、1回目の倍の数焼けたので、積んでも積んでもまだオーブンの中にスコーンがある事態に。
レシピは栗原はるみさんのもの。プレーンな方もすっごくおいしかったし、こちらもおいしくできた。
同じ材料でホットケーキを焼いてもいいんだけど、オーブンを使うと俄然、焼き菓子を作っているという雰囲気が出て楽しい。
ココアは冬の間に飲みきれなかったバンホーテンを贅沢に。
プレーンスコーンのときに使いそこねたクランベリーを入れたものと、なしのものを2パターン作ったけど、具が入っている方がより好み。これ、チョコレートチャンクを入れたやつもぜったいおいしいだろうなぁ。
ヨーグルトを最後調子に乗って追加したせいか、少ししっとりめになったので、次はちゃんと分量を守って作ろう。
コツとしては不安になっても水分は足さないことかも。なんやかんやで、分量通りでちゃんと生地はまとまる。
朝から焼きたてのスコーンを食べるのも、あまりに休日っぽくてうれしいし、部屋全体にいい香りが広がって、一日中しあわせな気持ちになる。
生クリームは使い切ってしまっていたので、クリームチーズとマーマレードをのっけて。
なんだかベーグルサンドのフィリングみたいな組み合わせだけど、しっとりめのココア生地ともよく合っておいしかった。次はチョコとオレンジピールを入れて焼いてみよう。
香水じゃない甘い匂いに満ちている部屋は、休日だけの特権だなぁ。
温州みかんとオレオクッキーの土曜日
土曜日。長い一週間だったなぁ……。
さて、今日はちゃんと朝ごはんがある土曜日。
昨日買って食べきれなかったパンを温め直して、朝ごはん。パンのおともに、お休みの日に飲みたくなるオレンジジュースもある。
心ときめくかわいさのラベルにひかれて。無茶々園さんの柑橘ジュース。
愛媛のかわいいみかんジュースというと、10FACTORYさんが長年独走していた気がするのだけれど、いつのまにこんなにかわいいことに……!
シンプルでスタイリッシュなものが好きな人は10FACTORY、レトロなかわいさが好きな人は無茶々園がおすすめだと思う。
寄ると、ますますかわいい。
ジュース自体のぱっきりした色味も相まって、個人的には温州みかんの方がより好みかなぁ。
デザインとして、きっちりパターンが入っているより、ちょっと不揃いな方が好きだというのもある。
ちなみに、ジューシーフルーツってなんだろう……? と不勉強なまま飲んだら、酸味が強くてびっくりした。ちゃんとラベルの裏を読んだら、「和製グレープフルーツ」と紹介されていたので、そりゃ酸っぱいわけだ。
パンもジュースもどちらもちょっと贅沢をしたものだったので、今日はスクランブルエッグはなし。
休日をしあわせにはじめる朝ごはんは、手間をかけるか、お金をかけるかだな。
朝ごはんとはいえ、こんな時間に食べたので、お昼はあんまりおなかが空かず、おやつだけ食べた。
晩ごはんに、先週作っておいしかったチキンと野菜のローズマリーグリルをしこんで、のんびりコナンの過去映画を流す土曜日。
14cmというコンパクトなサイズで始めたSTAUB生活だけれど、野菜がおいしすぎて、もっと大きなサイズを買い足してしまいそう……。あの重さだけが、ポチッとする右手を止めている原因なのだけれど、うーん。
重いと洗い物のときがなー。でも、大きなものでたっぷり魚を蒸したりしてもおいしそうだ。
今日は最後にまるごとカマンベールを追加して、贅沢なチーズフォンデュみたいにして、食べる予定。
ちなみに、おやつは一年ぶりくらいに食べるオレオだった。
この間、TVを観ていて「これ好きなんだよね」と言われてびっくりしたオレオ。
ブルボンのクッキーとか、こういう系の、親が積極的に買ってくれるタイプのお菓子って、好きか嫌いかを考えたことがなかったので、結構新鮮な感覚だった。食べてみると安定のおいしさ。
ちなみに、わたしは上のクッキーを取って先に食べ、クリームのついた残り半分をその後食べる派。ほんとうはチョコパイも同じ食べ方をしたいけど、あれは生地がやわらかすぎて。
コナンは『迷宮の十字路』からだらだら流し続けて、『水平線上の陰謀』まで来た。
いろいろいいキャラはいるけど、地味に園子っていいやつだよなぁ……と思った映画22周年目の春。
髑髏城で、待っている
そんなわけで、最近の週末は外出してはすぐに箱にこもる日々。
この間は、念願の『修羅天魔 髑髏城の七人 極』を観に行ってきた。
ひさしぶりの新感線。『乱鶯』を観たのが最後だから、2016年の3月以来。なんと2年ぶり。『蒼の乱』→『五右衛門vs轟天』→『乱鶯』と3作連続で観ていたので、その後ぽーんと空いてしまった感じ。
実は『髑髏城の七人』は、内容だけ知っているものの、劇場ではどのver.も見たことなく、ただ最後に天海祐希さんが絶対にくるはず…と思っていたので、去年少しだけ予習をしていた。
なので、実際に「極」が発表されたときには、「やっぱり!」という嬉しさと、キャスト表とあらすじを見て「???」という混乱とを同時に感じることに。
たぶんキャスティングされるなら極楽太夫だけど、せっかくなら捨之介をやってほしいなぁ……と思っていたので、天海さんの役名を見てふんわりと納得した後すぐにあらすじを読んで、ひしひしと別の期待が。
これ、役名としては極楽太夫だけど、実際には役どころとしては、捨之介な可能性があるかも、と。
その淡い期待は、豊洲の360°まわる劇場で、鮮やかに現実となった。
広い更地だった場所(?)に、ぽつんと建てられたIHIステージアラウンドは、ゆりかもめの市場前駅のホームからよく見える。最寄り駅で降りさえすれば、迷うことは絶対にないと思う。
天気が良くて、靴が楽なものだったら、豊洲から歩けない距離ではないかな。私はヒールを履いていたので、おとなしく電車に乗った。
(おそらく)ネタバレなしの感想を書くと、たしかにこれは髑髏城の七人だけど、でもやっぱりその前に修羅天魔だな、と。
冒頭とエンディングで2回、天海さんがタイトルバックを背負う場面があるのだけれど、最初は『修羅天魔』の4文字だけで、それが4時間後には『修羅天魔 髑髏城の七人』になる。
このver.の髑髏城にいろいろな解釈や意見はあるだろうけれど、個人的には、4時間かけて、『修羅天魔』の物語が『髑髏城の七人』になるのを見届けるための『極』かな、と。
きっとただの『修羅天魔』であれば、このセリフで終わっていいのだろう、という締めのセリフがあって、それを天海さんがかなりの迫力で演じるのだけれど、その後に、畳み掛けるように、もっとさわやかで力強い本当の締めのセリフがある。
だって、これは『髑髏城の七人』だから。
最後にあのセリフでこの一連の『髑髏城』を締めくくっただけでも、この舞台の意味があるだろうな、というラストで花鳥風月と熱心に通ったわけではない私でさえ、なんだかしんみりしてしまった。
たぶん思い入れが強い人ほどいろんな楽しみ方ができると思うけれど、『髑髏城』自体を初見でも、『極』のあらすじだけ抑えておけば、ちゃんとわかるところもいい。*1
天海さんファンとしては、極楽太夫が最初のタイトルバックを背負っている瞬間が、既に鳥肌が立つくらいかっこいいので、開始10分で、もう1回来ようという気持ちになれる舞台だと思う。
太夫役ということで、『蒼の乱』の一幕みたいなちょいしっとりめのキャラクターかなぁと思っていたら、最初から『薔薇とサムライ』のアンヌっぽい柄の悪さが出ていて、そこが一番嬉しい誤算だった。
女々しさの一切ないキャラクターで、見た目こそ太夫だけれど、とても格好のいい役作り。
極楽太夫であり、捨之介でありという、新しいキャラクターだったからかなぁ。
タイトルバックを背負う前の口上がまず、ぞくぞくするくらい柄が悪い。最高。
べらんめえ調だし、遊び女だし、スナイパーだしで、とっても柄が悪いのに、ふしぎと凛としてみえるところがとてもいい。なんといっても、私は口の悪い天海さんの役が大好きなのです。
聞いていて、あんなに気持ちよく罵られたいと思う声の人もいない。アンヌしかり、カイジの遠藤社長しかり、キュラソーの『面白い、轢き殺してやる」しかり。
今回一番好きなシーンは「しつこい」ですね。あの場面、流れも含めて最高だった。
そして、顔見世のシーンの浮世離れした美しさたるや。上手7列目というとてもいい席だったので、あのシーンはただただ楽しかった。
この舞台にない天海さんの見せ場はダンスシーンだけ、というくらい天海祐希という役者の魅力つめあわせになっている演出が多くて、ファンとしては、新感線さまさまという気持ち 。
ただその分、これまでの新感線の役にあった「このシーンのためにチケット代すべて払うわ」というわかりやすい超絶見せ場はなかったかなぁ……。まあ、出てくるシーンまんべんなく見せ場ですね。
強いて言うなら、最初と最後のタイトルバックの背負い方。あれはひれ伏してしまいそうな凄みがある。
個人的には、舞台で見せるあまりに華麗なマントや袴の足さばきが好きなので、ほぼ全編お着物だったのが、眼福度をセーブしているのかも。
とはいえ、毎回天海さんを舞台で見ると思う「ただ背中を見せて歩くのにも技術がいる」というのは、今回も存分に感じられた。なんだろう。なんで生身の体でスローモーションで歩けるんですかね?
そして、他のキャストさんについては、何を書いてもネタバレになってしまうので、何も書けないのがほんとうに悔しい……!
まあ、でもこの舞台のめっけものとしては、間違いなく竜星涼くんだろうなぁ。こちらも『極』オリジナルキャラの夢三郎役。
顔が小さい。スタイルが鬼。ともかく徹底的に、ものすごく舞台映する立ち姿。そしてすべての身のこなしが絵になる。声もいい。滑舌もいいので、品を作っているセリフも聞きやすい。唯一、歌だけはご愛嬌という感じ。
前クールいちばん楽しみに見ていた『アンナチュラル』で、謎の活躍をしていた(?)葬儀屋さんが髑髏城に出るということ自体は知っていたのだけれど、まさかこんな役だとは。
夢三郎という新キャラへの評価は置いておいて、これを演った竜星くんは満点だと思う。遠くない未来に、彼をこの役で初めて舞台で観たことが、きっと自慢になるはず。
ちょうど竜星君のお誕生日の日で、カテコの最後はケーキが出てきてハッピーバースデーに。劇場みんなで歌って楽しかったなあ。躍進の一年になりそうですね。いい役者さんだ。
兵庫はともかくキャラが好き。そういえば、福士さんも『アンナチュラル』つながりだな。ミコトの元カレ。一瞬歌うところがあるのだけれど、めちゃめちゃお上手だった。夢三郎とのキャラの相性も抜群。
沙霧は、出て来るだけで舞台に清涼剤があふれたように、清々しくかわいい。2回見て2回泣いたのは、実は沙霧のあるセリフだったり。なんだろう、間のとり方や声の発し方が、ものすごく切実で、ぐっと来てしまって。男子ver.も見てみたかったけれど、主演が天海さんなので、沙霧は女の子で大正解ですね。
そして、毎回殺陣の美しさにほれぼれする川原さん。いやね、この清十郎って役はやばい。めちゃめちゃいいキャラです。男性キャラでは一番好きかもしれない。この方の、殺陣をスローモーションでやる技術も、ぐうの音も出ないかっこよさ。
古田さんは、今までに見たことがないほど大人しいキャラクターでびっくり。この人のキャラが一番なんにも書けないキャラだなぁ……。
ぜんぜん数としては少ないし、観ているもののたいがい偏ってはいるけれど、上京して自分なりにいろいろと舞台を観てみて。その上で観た、上京12年目の新感線。
やっぱり、わたしの観劇のホームは新感線だし、この劇団の舞台が好きだなぁと改めて思った4時間弱だった。なんていうか、「もてなされている」という感じするの。それがとても好き。
舞台は、わたしにとって、安くないお金を払って非現実を感じに行く場所なので、できればエンターテイメントであってほしい。
脚本やキャラに、もちろん何かしら思うところがあったりもするけれど、でもそれも含めて、たっぷりとしたエンターテイメントが新感線の舞台に行くと観られるなぁと思う。
あの人のミュージカルがこんな形で観られるなんて! だったり、時事ネタを盛り込んだギャグだったり、ギャク担当キャラの振り切れ具合だったり。そしてともかく豪華な舞台装置だったり。
回転する舞台装置がめちゃめちゃ効果的に使われているので、それを体験するだけでも楽しかった。
最後のぐるりと1周する使い方は、ちょっとずるい。そしてあのシーンで極楽太夫にあんな表情を見せられたら、そんなのぜったいに泣いてしまう。
去年、『子供の事情』のラストの舞台装置の使い方を見たときに「もうこれを超えるものはないのでは!?」と思ったけど、こちらもたいがい素晴らしい。甲乙つけがたい演出だった。
舞台が終わって外に出ると、まだしっかりと明るくて驚く。
ともかく渋い平日が続いて、とってもくさくさしていた週末だったのだけれど、劇場を出たら、やりたいことや観たいものがたくさんあふれてきて、ものすごく元気になっていた。
がんばろう、明日からまた始めよう、とシンプルに思えて。
私の東京には、いつも新幹線の舞台が、いい春を連れてきてくれる。
*1:その分、今回はちょっと説明セリフが多いけど……。