髑髏城で、待っている
そんなわけで、最近の週末は外出してはすぐに箱にこもる日々。
この間は、念願の『修羅天魔 髑髏城の七人 極』を観に行ってきた。
ひさしぶりの新感線。『乱鶯』を観たのが最後だから、2016年の3月以来。なんと2年ぶり。『蒼の乱』→『五右衛門vs轟天』→『乱鶯』と3作連続で観ていたので、その後ぽーんと空いてしまった感じ。
実は『髑髏城の七人』は、内容だけ知っているものの、劇場ではどのver.も見たことなく、ただ最後に天海祐希さんが絶対にくるはず…と思っていたので、去年少しだけ予習をしていた。
なので、実際に「極」が発表されたときには、「やっぱり!」という嬉しさと、キャスト表とあらすじを見て「???」という混乱とを同時に感じることに。
たぶんキャスティングされるなら極楽太夫だけど、せっかくなら捨之介をやってほしいなぁ……と思っていたので、天海さんの役名を見てふんわりと納得した後すぐにあらすじを読んで、ひしひしと別の期待が。
これ、役名としては極楽太夫だけど、実際には役どころとしては、捨之介な可能性があるかも、と。
その淡い期待は、豊洲の360°まわる劇場で、鮮やかに現実となった。
広い更地だった場所(?)に、ぽつんと建てられたIHIステージアラウンドは、ゆりかもめの市場前駅のホームからよく見える。最寄り駅で降りさえすれば、迷うことは絶対にないと思う。
天気が良くて、靴が楽なものだったら、豊洲から歩けない距離ではないかな。私はヒールを履いていたので、おとなしく電車に乗った。
(おそらく)ネタバレなしの感想を書くと、たしかにこれは髑髏城の七人だけど、でもやっぱりその前に修羅天魔だな、と。
冒頭とエンディングで2回、天海さんがタイトルバックを背負う場面があるのだけれど、最初は『修羅天魔』の4文字だけで、それが4時間後には『修羅天魔 髑髏城の七人』になる。
このver.の髑髏城にいろいろな解釈や意見はあるだろうけれど、個人的には、4時間かけて、『修羅天魔』の物語が『髑髏城の七人』になるのを見届けるための『極』かな、と。
きっとただの『修羅天魔』であれば、このセリフで終わっていいのだろう、という締めのセリフがあって、それを天海さんがかなりの迫力で演じるのだけれど、その後に、畳み掛けるように、もっとさわやかで力強い本当の締めのセリフがある。
だって、これは『髑髏城の七人』だから。
最後にあのセリフでこの一連の『髑髏城』を締めくくっただけでも、この舞台の意味があるだろうな、というラストで花鳥風月と熱心に通ったわけではない私でさえ、なんだかしんみりしてしまった。
たぶん思い入れが強い人ほどいろんな楽しみ方ができると思うけれど、『髑髏城』自体を初見でも、『極』のあらすじだけ抑えておけば、ちゃんとわかるところもいい。*1
天海さんファンとしては、極楽太夫が最初のタイトルバックを背負っている瞬間が、既に鳥肌が立つくらいかっこいいので、開始10分で、もう1回来ようという気持ちになれる舞台だと思う。
太夫役ということで、『蒼の乱』の一幕みたいなちょいしっとりめのキャラクターかなぁと思っていたら、最初から『薔薇とサムライ』のアンヌっぽい柄の悪さが出ていて、そこが一番嬉しい誤算だった。
女々しさの一切ないキャラクターで、見た目こそ太夫だけれど、とても格好のいい役作り。
極楽太夫であり、捨之介でありという、新しいキャラクターだったからかなぁ。
タイトルバックを背負う前の口上がまず、ぞくぞくするくらい柄が悪い。最高。
べらんめえ調だし、遊び女だし、スナイパーだしで、とっても柄が悪いのに、ふしぎと凛としてみえるところがとてもいい。なんといっても、私は口の悪い天海さんの役が大好きなのです。
聞いていて、あんなに気持ちよく罵られたいと思う声の人もいない。アンヌしかり、カイジの遠藤社長しかり、キュラソーの『面白い、轢き殺してやる」しかり。
今回一番好きなシーンは「しつこい」ですね。あの場面、流れも含めて最高だった。
そして、顔見世のシーンの浮世離れした美しさたるや。上手7列目というとてもいい席だったので、あのシーンはただただ楽しかった。
この舞台にない天海さんの見せ場はダンスシーンだけ、というくらい天海祐希という役者の魅力つめあわせになっている演出が多くて、ファンとしては、新感線さまさまという気持ち 。
ただその分、これまでの新感線の役にあった「このシーンのためにチケット代すべて払うわ」というわかりやすい超絶見せ場はなかったかなぁ……。まあ、出てくるシーンまんべんなく見せ場ですね。
強いて言うなら、最初と最後のタイトルバックの背負い方。あれはひれ伏してしまいそうな凄みがある。
個人的には、舞台で見せるあまりに華麗なマントや袴の足さばきが好きなので、ほぼ全編お着物だったのが、眼福度をセーブしているのかも。
とはいえ、毎回天海さんを舞台で見ると思う「ただ背中を見せて歩くのにも技術がいる」というのは、今回も存分に感じられた。なんだろう。なんで生身の体でスローモーションで歩けるんですかね?
そして、他のキャストさんについては、何を書いてもネタバレになってしまうので、何も書けないのがほんとうに悔しい……!
まあ、でもこの舞台のめっけものとしては、間違いなく竜星涼くんだろうなぁ。こちらも『極』オリジナルキャラの夢三郎役。
顔が小さい。スタイルが鬼。ともかく徹底的に、ものすごく舞台映する立ち姿。そしてすべての身のこなしが絵になる。声もいい。滑舌もいいので、品を作っているセリフも聞きやすい。唯一、歌だけはご愛嬌という感じ。
前クールいちばん楽しみに見ていた『アンナチュラル』で、謎の活躍をしていた(?)葬儀屋さんが髑髏城に出るということ自体は知っていたのだけれど、まさかこんな役だとは。
夢三郎という新キャラへの評価は置いておいて、これを演った竜星くんは満点だと思う。遠くない未来に、彼をこの役で初めて舞台で観たことが、きっと自慢になるはず。
ちょうど竜星君のお誕生日の日で、カテコの最後はケーキが出てきてハッピーバースデーに。劇場みんなで歌って楽しかったなあ。躍進の一年になりそうですね。いい役者さんだ。
兵庫はともかくキャラが好き。そういえば、福士さんも『アンナチュラル』つながりだな。ミコトの元カレ。一瞬歌うところがあるのだけれど、めちゃめちゃお上手だった。夢三郎とのキャラの相性も抜群。
沙霧は、出て来るだけで舞台に清涼剤があふれたように、清々しくかわいい。2回見て2回泣いたのは、実は沙霧のあるセリフだったり。なんだろう、間のとり方や声の発し方が、ものすごく切実で、ぐっと来てしまって。男子ver.も見てみたかったけれど、主演が天海さんなので、沙霧は女の子で大正解ですね。
そして、毎回殺陣の美しさにほれぼれする川原さん。いやね、この清十郎って役はやばい。めちゃめちゃいいキャラです。男性キャラでは一番好きかもしれない。この方の、殺陣をスローモーションでやる技術も、ぐうの音も出ないかっこよさ。
古田さんは、今までに見たことがないほど大人しいキャラクターでびっくり。この人のキャラが一番なんにも書けないキャラだなぁ……。
ぜんぜん数としては少ないし、観ているもののたいがい偏ってはいるけれど、上京して自分なりにいろいろと舞台を観てみて。その上で観た、上京12年目の新感線。
やっぱり、わたしの観劇のホームは新感線だし、この劇団の舞台が好きだなぁと改めて思った4時間弱だった。なんていうか、「もてなされている」という感じするの。それがとても好き。
舞台は、わたしにとって、安くないお金を払って非現実を感じに行く場所なので、できればエンターテイメントであってほしい。
脚本やキャラに、もちろん何かしら思うところがあったりもするけれど、でもそれも含めて、たっぷりとしたエンターテイメントが新感線の舞台に行くと観られるなぁと思う。
あの人のミュージカルがこんな形で観られるなんて! だったり、時事ネタを盛り込んだギャグだったり、ギャク担当キャラの振り切れ具合だったり。そしてともかく豪華な舞台装置だったり。
回転する舞台装置がめちゃめちゃ効果的に使われているので、それを体験するだけでも楽しかった。
最後のぐるりと1周する使い方は、ちょっとずるい。そしてあのシーンで極楽太夫にあんな表情を見せられたら、そんなのぜったいに泣いてしまう。
去年、『子供の事情』のラストの舞台装置の使い方を見たときに「もうこれを超えるものはないのでは!?」と思ったけど、こちらもたいがい素晴らしい。甲乙つけがたい演出だった。
舞台が終わって外に出ると、まだしっかりと明るくて驚く。
ともかく渋い平日が続いて、とってもくさくさしていた週末だったのだけれど、劇場を出たら、やりたいことや観たいものがたくさんあふれてきて、ものすごく元気になっていた。
がんばろう、明日からまた始めよう、とシンプルに思えて。
私の東京には、いつも新幹線の舞台が、いい春を連れてきてくれる。
*1:その分、今回はちょっと説明セリフが多いけど……。