お湯に溶けてくイエローなオレンジ
平日、湯船にお湯をためる夜は、ほぼないと言っても過言ではないけれど、まだ明るいうちにお湯をためる休日は、意外と頻繁に訪れる。
寒い冬の日、天気のいい休日に、たっぷりお風呂に浸かって、カーテンをしていてもなお真っ白な部屋の中、熱いくらいだ、と思って暖房を消す午後2時。
うだるような夏の日、昨晩もシャワーを浴びたのに、もう一度、朝からゆっくりお湯に浸かって、すっきりした気持ちのお風呂上り、カーテンの奥の窓を開け、ぼーっと風にあたる午前11時。
雨の日に、外の水は冷たいのに、ここは温かいと思いながら浸かる湯船も好き。
そして、そういうお湯には、ほぼ100%の確率で、いい匂いがする。
この間の、日曜日のバスルームは、ぽんかんの匂い。
帰省した際に買って帰った“yaetoco”*1のもの。
休日のお風呂に、色や泡は、なくてもいい。
泡はあると素敵だけれど、なくなるときに少しさみしいし、色は、残り湯を洗濯に使う可能性を考えると、ない方が都合良い。
でも、匂いだけは何もないとさみしくて、だからたとえばバスソルトだって、効果よりは香りで選んでしまう。
その点、愛媛産の“yaetoco”は、そんな身には、ついつい浮き足立ってしまう、懐かしいぽんかんの香り。
こちらのブランドはここ数年、帰省をするたびにちらちら眺めていたもので、たぶん看板商品は化粧水かハンドクリームなのだと思う。
そのふたつは、この10年間でずいぶんと親しくなった羽田空港に比べると、まるで「駅」のように思える松山空港の片隅にも、タイミングよければ、ひっそりと置いてある。
街のなんということはない地元の雑貨屋さんにも、ぽつぽつと出没するあたり、人気商品らしいと踏んでいる。
たぶん、これが純粋に旅行だったならば、わたしも少なくともハンドクリームは買って帰ってるだろうなあ、と毎回見かけるたびに思う。
バッグの中に、このイエローがあったら、それはきっと冬の寒い通勤電車の中で、気持ちがふわりと強くなるだろうなあ、と。
ただ、「一期一会」という力を借りるには多すぎる回数目にする元・地元民としては、ちょっと気持ち躊躇うお値段だったりして……。
それでも、さすがにそろそろ何か使ってみたい気持ちが抑えきれず。
テスターの香りを嗅いで、この香りの蒸気の中で深呼吸する休日を想像したら、それだけでしゃきんと元気が湧いてきたこちらのバスソルトでデビューしてみることにした。
注意書きにもある通り、バスソルトという響きから想像する、ごつごつとした手ごたえのある粒とは違い、さらさらとほんとうに繊細な粒子。
舐めたら、すぐに舌の上で消えてしまいそうな、そんな淡い粒が、さあっとお湯に溶けていく。
食後の柑橘として、ぽんかんという品種が最初に加わったのは、こたつじゃなくて、ソファのローテーブルの上だったと思う。
そう考えると、たぶんわたしが小学生になってしばらくしてからのことで、はじめて食べたときにはなんて甘いんだろう! とびっくりしたことを覚えている。味も、そして香りも。
根本的には柑橘類らしく、とてもさわやかなのに、どれを食べても、決して酸味に眉をひそめることはなく、しっかりと甘い。
最近、実家に帰るとやたらと母には「はれひめ」(たしかに、こちらもとてもおいしい)をおすすめされるのだけれど、あのときの感動のせいで、わたしは未だに柑橘というと、たぶんぽんかんがいちばん好きだ。
おそらく、これからもずっと。
そんなわけで、あの蜜柑とはちがう酸味のない香りが、ふわっとお湯に溶けるにしたがってバスルームいっぱいに広がったときには、「はあああああ」と思わず、なかなか温泉でしか出ないようなしあわせな声が唇からこぼれた。
色は付かない、シンプルなシンプルなバスソルト。
もう一種類、「甘夏」という、名前の語感で言えば、むしろぽんかんよりもずっと好きな品種名を冠したものもあったのだけれど、まずはこちらかな、と。
それに、「甘夏」は、グリーンのパッケージなのだ。
どうしてもこのイエローが気になっていたので、初志貫徹でこちらの種類だけかごに入れて帰ってきた。
そんなわけで、効能は置き去り。
宇和海でとれた真珠の保湿効果もある、なんてことは、使い終わった後、今こうして記録に残そうと調べていて、はじめて知った。
ちょっとぬるめのお湯だったので、しっかりつかってたしかにお肌はすべすべ。
今度帰ったら、箱入りを買ってしまいそう!
こちらのブランドは、こういう風にお試しサイズのものが、お手頃価格であるのがとても素敵。
自分用にではなく、ちいさなお土産として買って帰った化粧せっけんも、90gはそれなりのお値段するのだけれど、ゴールドのシールを貼られたお試しサイズは税込でたったの¥216という可愛い値段設定。
あの人にもこの人にも何か愛媛らしいものを、と思ったら、しばらくはこちらのバスソルトと石鹸を定番にしてしまいそうな「ちょうどいい感じ」がある。
ちょこちょこ市内にはいろいろなお店に置いてあるけれど、他のお土産も含めてぱっと見るには、やっぱりロープウェー街の伊織松山店*2が便利だと思う。
ここ数年、なんだかとっても黄色が好きになって、いつからだろう、と振り返ってみたら、なんのことはない、働き始めてからに他ならなかった。
たぶん、勤めだしてからのわたしには、恒常的に「元気」が足りていないのだろう。
だからこそ、無意識に、いろいろなものが持つビビッドなイエローで、それを補っているような気がする。
愛媛と言えば、蜜柑。蜜柑と言えばオレンジ。
なのに、たまたま惹かれたパッケージがにごりのないきれいなイエローだったこと。
そして、それが、いちばん好きなフルーツの香りだったのことも、ぜんぶぜんぶ、なんだかちょっと心強くて、このイエローを目にするたびに、ふるさとのことが、少し好きになる。