深夜のタクシー、誰かのいい金曜日
土曜日。明日は休日出勤。しばらく休日出勤が続く。はー、どこかで代休を取ろう。
年が明けてから、タクシー率が上がっている。
それはつまり、終電ですら帰れていないということであり、なかなかにしてハードなまま、1月が終わろうとしている。
せっかく登録しているHuluも、仕事が始まってからはほとんど開きすらしなかった。『ゴシップガール』を一話見たくらい。もちろん、連ドラは初回以外、見ていない。
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そういうわけで、社会人になって、初めてタクシーに乗る生活をするようになり、そしてそれはちっともいいもんじゃないなあと思っている中で、一度だけ、楽しいタクシーがあった。
何回か前の金曜日、職場のある街から、恋人とタクシーでいっしょに帰るという経験をしたのだ。
その夜、わたしは1時手前まで相変わらずデスクに張り付いていて、周りは珍しく綺麗に人がいなくなり、今日もひとりでタクシーかあ、とげんなりしていた。
仕事を持ち帰ってでもいいので、一刻も早く定時以降は会社から出たい人間としては、こういう「待ち」の仕事で、会社にいないと片付けられないことというのは、ほんとうにしんどい。
それがまあ、なんとかかんとか日付けが変わる頃にはきて、諸々手筈を整え、一応帰るメールでもしますかね、と静かなデスクでiPhoneを開いた。
開いたメールアプリには、数分前に恋人から、「今から帰ります」メールが届いていた。今、どこどこ、とわたしの会社の最寄り駅の名前が書いてある。
急いで連絡を入れて、いちばんわかりやすい交差点で待ち合わせをした。
大慌てで荷物をまとめ、オーバーをかぶり、ビルを出る。いつも拾う会社の前のタクシーを通り過ぎ、鼻がつんとする寒さの中を、はしはしと歩く。
東京に初雪が降るか、という日で、いつも以上にしんと空気が冷たかった。
交差点の角には、ご機嫌の恋人が待っていた。しばらく立っている間に我慢ができなくなったらしく、ダウンのフードまでかぶっている。
わたしは、途端にしあわせになった。珍しくお酒をたくさん飲んだらしい恋人は、明るく酔っ払っていて、動作がいつもより2割増しで大きい。
すべての金曜日が忙殺されたわけではないのだ、と思うと、なんだかほっとして、台無しにしたわたしの金曜日も、少し浮かばれた気がした。
いつもと違う通りで止めたタクシーに、ふたりで乗り込む。大抵タクシーに乗るときはよれよれで、行き先だけ伝えて、寝ちゃいけない寝ちゃいけない、と唱えながら俯いているのだけれど、半分くらいは寝てしまう。
緊張するし、でも結果眠ってしまって起こされ、気まずい思いをするし、で、わたしは深夜のタクシーがあまり好きじゃなかった。
でも、好きな人と乗る家路へのタクシーというのは、快適で、安全で、沈黙も運転手さんとのやり取りも、いやな感じではなくて、単純にいいものなのだった。
恋人は終始ご機嫌で、われわれは深夜とは思えないテンションで、みかんの接ぎ木について語り合った。
そんなおしゃべりをしながら帰るにも、タクシーは、暖かく、他のお客さんもらいず、運転はスムーズで、ともかく文句のつけようなないくらい、素晴らしい乗り物なのだった。
四半世紀生きていても、人生には初めてすることがまだまだあるなあ、と思う。
経験しなくてもいいんだけど、という初めても多々あるにもかかわらず、こうしてときどき、いい「初めて」に出会うと、少しだけ、ほんの少しだけ、根は保守的なわたしでも、冒険心が湧く。