ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

うみのごはん

夏になると、帰省をする。特にこの時期、と決めているわけではないけれど、海が見たいなと思うと、近場で探すよりいっそ帰郷した方が早いので、なんとなく夏になると地元に帰ることが多い。

今年の帰省は、初めて行く場所がいくつもあって、それがとても新鮮だった。

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何もないと思っていた場所に、ぽんっと都会で見慣れた娯楽ができているのにも驚くけれど、小さいころから、何度も何度も行ったはずの場所が、俄然楽しめる場所になっていた驚きの方が、数段鮮やかだ。

前者は突如として現れたLaQua的な「そらともり」*1で、LaQuaではとうてい叶わないゆったりとしたスペースを確保して、温泉と岩盤浴を堪能した。

女友達と四国を旅するなら、何をするでもなく、ここでのんびりするのもいいな、という気持ち。館内は天井が高く、とても快適な空間で、雑誌もマンガも読み放題で、いくらでもいられそうだった。

 

でも、今回断然多かったのは後者で、中でも驚いたのは松山から車で30分ほど走らせた海岸である。

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子どもの頃、夏休みの土日と言えば海水浴だった。平日は母がプールにつれていってくれるのだけれど、海だけは、母と妹の3人では絶対に行かなかった。海で遊ぶには、どうしたって“安心”が必要なのだった。

 

海水浴をする海しか知らなかったせいか、記憶の中の砂浜はいつもカラフルだ。

海の青、波の白、万国旗みたいに色とりどりの水着、思い思いに立てられたパラソル、そして海よりずっと透明に近い空の青! だだっぴろい砂浜をバックに、次から次に色があふれる。

そんな色の洪水の中で、定番の海の家で売られている焼きそば、コーラ、それからたこ焼き。この海にくると、砂でふとももまでいつもじゃりじゃりにしながら、バスタオルを肩にまきつけてソース味のするものを食べるのが楽しみだった。

 

だから、この浜辺で、まさかこんなにシンプルなものが楽しめるとは、思ってもみなかったのだ。

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はもの湯引き、さざえのつぼ焼き、煮付けに鰻、そしてイカ焼き。調理らしい調理が施されているのは、きゅうりとタコの酢の物くらいで、他は茹でただけ、焼いただけの至ってシンプルな味付けである。

でも、たらされた醤油や、添えられた酢味噌だけで十分おいしくて、なんだか海水浴のできる海のごはんじゃないな、とわたしは笑ってしまう。こんなお祭り感のないごはんが食べられるなんて、まるで、大人のための海辺のようだ。

それを十二分に堪能するべく、朝の10時半からビールの缶を空けてみる。

どこからか聞こえる陽気な音楽を聴きながら、わたしは港に遊びに来たような朝ごはんを、数メートル先ではしゃぐ子供たちの海水浴を眺めながらたいらげた。

 

くたくたになるまで泳いだ体には、ソースの味がとてもうれしかった。でも、ただ海が見たい大人には、体が中から元気になるような海の味が、とても気持ちいい。

上京するまでは、海というのは、すべからく泳げるものだと思っていた。泳げない海で食べるごはんの味がわからなかった。泳げる海へ久しぶりに足を運んでなぜか、海とは泳がなくても十分、ごはんがおいしい場所なのだということに、遅ればせながら気づいた気がする。

 

とても贅沢な朝ごはん兼お昼ごはんを食べて、最後は昔ながらの売店で、子どもの頃は溶かしてしまっていたソフトクリームを買った。

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オレンジの味がするという夕焼けソフトにもひかれたけれど、まったりとした気分だったので、定番のバニラ味に。

子どもの頃、わたしはいつもソフトクリームの味で迷ってしまい、迷わずに決められるのは駅の地下にあるお好み焼き屋さん兼ソフトクリーム屋さんに行った時だけだった。そこのソフトクリームには、「なな」「りえ」など名前がつけられており、わたしはそのお店でだけは迷わず、いつも自分の名前のフレーバーを頼んだ。*2

大人になっても迷う癖は治らず、でも結局いちばんシンプルなものがおいしいんだ、と言い聞かせながらプレーンやバニラを選ぶことが多い。

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近くで売っているドーナツが絶品なのだと、わたしをひっぱっていき、たまたまお休みをしているのを見つけてわかりやすくがっかりしていた母と、サザエを3つも食べて苦い顔をしていた父にも同じものを買い、これはなんて観光っぽい行為なんだろうと思いながら、地元の海を眺めていた。

もう半分、地元は知らない町の顔をしている。

*1:そらともり

*2:でも妹の名前のフレーバーの方がおいしそうで、実はいつも妹がうらやましかった。