ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

美女と竹林

午後1時半ごろ。鯛茶漬けを完食して、煌々と明るい表に出た。

もうこれで京都に来た目的はほぼ100%クリアして、ミッションコンプリートなわけだけれど、このまま嵐山を後にするのももったいないので、しばらくぷらぷらすることに。

そうだそうだ、竹林も見ないといけないしね、ということで道なりに歩き出す。

大通りとは逆の方に向かったせいなのか、思ったよりも人通りがなくて、ちょっと不安になりながらも進むと、突如、雑然とした竹林がぽんっと目の前に。進んでいく人よりも、こちらへ戻ってくる人の方が多いなあ、と気にしながらも更に進む。

不安なときに引き返すタイプと、とりあえず先に進んでみるタイプとがあると思うのだけれど、わたしはだいたい進む側だ。

しばらく歩くと、たくさんの観光名所の方角を表した立て看板が十字路に現れ、その中でいちばん人通りの少なそうな道を選ぶ。

5分ほど歩いた道の角に、かわいらしい建物が見えた。

https://www.instagram.com/p/BXFvCeXAWla/

十分ほどゆっくり店内を眺めて、野菜ジャムにたいそう惹かれたのだけれど、この後嵐山を練り歩くことを考えるとまだ瓶は買う勇気が出ず、何も買わずにお店を後にする。

だいたい旅行先では、荷物になるものばかりお土産に欲しくなる性質で、その癖、荷物が重くなるのが何よりも嫌いなのだから、欲望と言うのは上手くできてない。今回の旅でも「いっそ送ろうか」と何度も思ってそれが購入のブレーキになった。

スモールライトが手に入ったら、きっとわたしは旅先で大変な散財をすると思う。

このあたりでぽつぽつと同じく観光に来ている人が現れて、通りのさみしさがふっと消えていく。あまりによく晴れているせいか、京都という土地柄のせいか、人がいなさすぎると、神隠しがあったみたいでちょっとこわい。

お店を出て数分歩くと、突然びっくりするほど視界が開けた。

青すぎる空に、白すぎる雲、そして書き割りのような緑。どこまでもにぎやかなのに、なんだかやっぱり人が存在しない静けさがある。

https://www.instagram.com/p/BXFvAP_AppM/

こういう開け方って、乗り物に乗っているとき特有のものだと思っていたので、歩くスピードでいきなりこうなると結構びっくりした。

そして、なぜか反射的に「奈良だ」と思う。なんというか、古墳だ、と。

そのときにはわからなかったけれど、たぶんこの本のカバーの刷り込みかな。ひょんなことからほとんど知らない女と、奈良に女二人旅行をすることになる話。

 

まひるの月を追いかけて (文春文庫)

まひるの月を追いかけて (文春文庫)

 

左手には、控えめに、でも途切れることなく、背の低い建物が建っていて、その対比も物語じみていた。

面白いなあ。

神社やお寺をふらふら眺めつつ、当初の目的である竹林ってこんなものなのかしら、と首を傾げながら進む。一度ぐるりと回って、先ほどの立て看板のところまで戻ってくると、「渡月橋」という表記に、それを目指して進むことに。

これはこれで聖地巡礼めいている、と思いながら。

もっとも、このミーハーな判断は結果的には吉と出た。歩いて行くにつれ、どんどん人通りが激しくなっていく。といっても、すれ違う人の数がぐんぐん増えていく、といった意味でだけれど。

つまり、われわれはいわゆる観光の順路を逆流していたわけなのだった。

そんなわけで、竹林の前にトロッコに辿り着いてしまうはめに。嵐山のトロッコ乗り場はたいそうにぎわっていた。3連休だからこれくらい人はいてほしいよね、というにぎやかさ。

万が一乗れたら乗ってしまおう、と思ってみたチケットは、1時間後の便まで満席だった。

https://www.instagram.com/p/BXFu9D7gzth/

諦めよく、ラムネだけ飲んでゆるやかな坂を下りることに。

それにしても、去年から脱水症に怯えているので、この旅行はともかくたっぷり水分をとった旅だったなあ。この前にも自動販売機でミネラルウォーターを買って、ここに着くまでにほぼ飲みきっていた。

ゆっくり下っていくと、ようやく想像と違わない竹林が現れる。

そこだけ温度が2、3℃低そうな清涼な空気。

https://www.instagram.com/p/BXFu48kg4Uo/

歩いて堪能できるよう順路ができていて、それをゆっくりとめぐった。どこで写真を撮ってもほぼ同じ仕上がりになるせいか、一度写真を撮るとそれでおしまいの人が多くて、人がたくさんいても意外にストレスなく進める。

もっとも、覚悟していたよりもずっと少なくて、ちょっとびっくりしたくらい。

少し先(ふつうだと手前?)には、人力車専用の竹林もあり、そちらの方も適度に余裕がありそうだった。混んでいるとアトラクション並みに人力車がつながってしまいそうだなあ。

 

これは、帰りの電車の中でようやく気付いたことなのだけれど、この日は祇園祭の一夜なのだった。

そりゃあ、天下の嵐山も、いつもより人が少ないわけだ……。

妙にいいタイミングで訪れたせいで、数年前に京都旅行をした際の「ともかく混んでいて、めちゃめちゃ暑い」というイメージが良き方に更新された2017年の夏だった。