いちご色の季節
3月。早いなあ……という感想もなくなるくらい、この速度で季節が流れるのにも慣れてきた。
少しずつ、朝選ぶアウターを薄手にしても大丈夫になってきたけれど、むしろ、今年あまり着なかった冬のコートを、慌てて着てみたりしている冬の終わりである。
一方、さすがにインナーは、だいぶやわらかな色合いが多くなってきて、サックスブルーにベージュなんて、まるでもう春先みたいな配色も。
全身鏡の中の自分の姿に、ちょっとそわそわする日々が続く。
そうなると、冬の間は、幾分強めの色をのっけていたネイルも、なんだかあんまりくっきりさせる気分じゃなくなり、久しぶりにミルクを落としたいちご色に、爪を染めてみた。
ちょっとよれてしまったので、写真は、以前塗ったときのもの。
見る分には、細く尖った形に整えられた爪が好きだ。
とはいえ、日々、コンタクトを入れるので、どうも自分ではあの形状で生活をする自信がなく、わたしの爪は、伸ばしているときも基本、こんなナチュラルな形をしている。
スクエアはスクエアでなんだかぴしっと折り目正しくて気恥ずかしく、忙しくなってくると、ほぼ切りっぱなしの状態。
そんな適当な手入れの爪でも、ふわっと綺麗にごまかしてくれる、こういうとろんとした色が、やっぱり好き。
ついついその品行方正さに、「つまらない」というネガティブな感想を抱きがちなのだけれど、こうして塗ってみると、そんなやっかみのような印象さえ飄々と飲み込んで、どんな爪でも手入れされているように見せてくれる。
使っているのは、エテュセ。ジェルカラーコートの#RS1(いちごオレ)だけ。
下に同系色の普通のネイルを重ねてもいいのだろうけれど、こちらの二度塗りで、地の爪が透けないくらいしっかり発色するので、ずぼらなわたしは単体で使っている。
この色を塗っていると、大学生の頃、マリ・クレールの#SAKURA(?)というカラーが好きだったなあ、ということを思い出す。
爪がきれいだと、それだけで自分に自信が持てて、髪の色を数年ぶりに真っ黒にした就職活動中も、ネイルだけは、塗るのをやめられなかった。
当時、「桜咲け」という願いも込めて、ずっと爪に塗り直していたカラーで、何よりほんとうに指が綺麗に見えて、大好きだった。
そういえば、いつの間にか買わなくなったなあ……と調べてみたら、なんと撤退してしまっていたみたい。
ちなみに、就職活動をして、はじめて爪の色を落としたのが、今入っている会社の一次面接だった。
そんなの別にいいじゃない、と思っていたのに、「今回ばかりはどんな小さなことでもケチがつかないようにしたい」と思っていることに気づき、わたしは爪の先から自分のいちばん行きたい場所を知ったわけだけれど……。
それはまた、別の話。
次は何に塗り替えようとキーボードを叩く指先を眺めながら、ぼんやり考える土曜日の夜。
久々にベージュもいいなあ。同じベージュでも、俄然、軽やかなトーンの方がしっくりくる。
冬の間はクールすぎてお休みしていたグレージュに、エクリュを交互に塗り、1本ごとにパールの効いたオレンジでフレンチに。
そんなことをしていた、ある夏の日のネイルを見返して、そろそろフレンチもいいなあ、なんて思っている。
素材や濃さの違う黒・茶・グレー・白のローテーションになる冬服と違って、服の方に色が溢れだす春は、爪くらいは、さりげないベージュがちょうどいい。
と言いつつ、今年の春は珍しく、トップグレーの薄手のニットや、ドライなキャメルのシャツなんて、例年にないベーシックな色のものが気になっているのだけれど。
1枚は、水彩っぽい花柄が欲しいなあと思っているけれど、それは断然、ワンピースじゃなくてスカートがいい。
そんなことを考えながら、おそらく最後の冬っぽいネイルは、がつんと赤にゴールドを効かせた強めの配色でLIVEへ行った先日のもの。
Diorの#999は、塗るのがほんとうに楽で、なおかつきれい。
その分、トップコートを塗らないと剥げるのも楽ちんになってしまうので、逆に気軽に纏える赤になりつつある(写真の時点で、既に先が欠けつつある……!)
これを塗ったのも、土曜日だったなあ。
届いたばかりのソファーにごろんと横になり、レースカーテン越しに入る日差しに手を透かして、爪に乗せた色を楽しんだ。
季節を楽しむことが、忙しくなるとついついおろそかになるけれど。
爪を塗り直している数分間だけ、どんなにばたばたしているときでも、少しだけ立ち止まって、過ぎていく季節と親密になれる。