ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

ラジオのこと

ある冬の日のこと。

東京にいては、なかなか冬が来たなあという実感がわかないから、というわけではないのだけれど、冬を実感しに、確実に寒いところへ行ってきた。

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これが、2016年、最初の旅行になる。去年の最初が、ばたばたが収まった後の3月だったことを思い返すと、今年の「はじめて」は少し早い。

とはいえ、しゃかりき張り切っている、というよりは、ともかく、ゆっくりするのが主眼だったので、今回は、旅程もずいぶんと自分を甘やかしたもの。

お昼過ぎに羽田へ向かい、帰りも、お昼すぎには羽田に戻ってくると言う、ちょっと贅沢な旅の仕方をした。

数年前までは、少しでも「元を取る」ために、始発で動き始め、最終で帰ってきていたことを思うと、ずいぶんと旅の仕方が大人になった気がする。

 

そんなのんびりとした旅でも、いろいろなことがあった。

きゅううっと透明なスノードームに閉じ込められ、何度も何度もわたしは棚の上に飾られたそのガラスを覗き込むことになるんだろう、と思った一瞬が、両手からこぼれるほどに。

いい旅だったなあ、とすでにしみじみと思い返していたときに、でもなにがよかったってあれだよな、とふと思った。

 

ラジオである。

 

今回の旅は、久しぶりに、レンタカーを借りての車移動がメイン。そして、土地柄、ともかくまっすぐみちなりに進む距離が長いのだった。

俄然、何かBGMくらいは欲しくなるわけで。

同じくレンタカーを借りて、九州を旅をしたときには、対照的に、くねくねとよくハンドルを切る道が続いた。

なんだか無性にテンポのいい音楽が効きたくなり、郊外のCDショップ(にぎやかな音楽がかかっているのに、ほとんどお客さんがいなくて、奇妙に静かだった)で、数年ぶりにCDを買ったりした。

今回は、CDという感じじゃないなあ、と。

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お昼を少し過ぎた車内は、あたり一面の雪の白が染め上げたように、やわらかく白く、午後の紅茶のレモンティーが、これほど似合う14:00もそうそうないだろうというのどかさ。

何かを買ったりするような積極的な気持ちも、するすると解けていく。

だって、ただ座っているだけでしあわせな空気で、欲しいものは、もうここに全部あるという充足感がある。

wi-fiも持ってきていたので、iPhoneから音楽でも流そうかなあ……と考えて、そのつなぎとして、「そういえば」と付けたのがカーラジオだった。

がさがさとした音が少しずつクリアになり、ぱっとピントがあったように、耳に番組が飛び込んでくる。

ああ、懐かしいと思って、自分でも意外な感想で驚いた。

こうやって車の助手席に座って、流れてくるラジオを聴くともなしに聞いていたことがあったなあ、と思い返してみると、そういえば、中学生の頃、学校に行く車の中で聴いていたのだった。

 

家から少し距離のある中学に進学したこと、その方面が父の出勤方向とかぶっていたことが、がちゃんと音を立ててかみ合い、中学3年間、毎朝父に落っことして行ってもらうという恵まれた(?)通学手段を取っていた。

年子の妹が、追いかけるように同じ中学に進学してきたことで、その通学方法はより強化なものとなる。

そして、2年生から変わったことと言えば、車に乗っている時間が倍ほどに伸びたことだ。

うちの妹はともかく朝に弱く、かつ、“「Seventeen」を呼んでいる女子中学生”を絵に描いたように、朝の身支度に時間がかかる子で、毎朝、まあ待たされたものだ。

どうせ彼女が降りてくるまでは行けないのだから、わたしも家でのんびりしていてもよかったのだけれど、なんとなく気が急いて、ずっと1年生のときと同じ時刻に、降りることにしていた。

そうすると、既に10分くらい待っていた父が、毎朝同じラジオを聴いていた。

半分眠った頭のままで、それをわたしも聴いていたことを思い出す。

もともとは、道路の混み具合を聴くために付けていたはずなので、ローカルの番組だったのだと思う。

明るい、とっつきにくいところのない女の人の声、相槌を打つ男の人のいいリアクション。

短い番組だったのか、1時間以上あったような番組だったかも忘れてしまったけれど、何曲か曲もかかっていた。

あの頃は、なんだろう。宇多田ヒカルさんがよくかかっていた気がする。懐かしい。

 

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どこまでもまっすぐ続く道を走る車の助手席に乗って、まるで、昨日までそうしていたかのように自然な感じで、ラジオを聞き流しながら、そんなことを思い出していた。

かかっていたのは偶然にもローカル番組で、「明日も-20℃くらい。変わりませんね」なんて、とてもあっさり聞き流せない台詞が耳に飛び込んでくる。

少しずつ全国番組に移行していき、温泉からの帰り道、「どんな鍋が好きか」なんて聞いても聞かなくてもいい30分番組を聴いたり。

真昼間、ふいにイケメンの声が流れてきて、「ラジオを通して聴くいい声って、ぜんぶ福山雅治っぽくなるんだね」と適当に感想を言ったら、なんのことはない、ご本人だったり。

不思議なことに、ラジオを通して聴くと、どんな人の声でもたとえばTVで聴くよりも、ずっと血が通った声に聞こえる。

なんというか、一言一言発する度に、直に体温を感じる声になるというか。

ラジオを通すと、まるで電話越しの声を聴いているみたいに、人の声と言うのは急に親しげに聞こえるからかもしれない。

ラジオで話しているの聴くと、どうしたって、わたしは数年前にちょっとだけこの人と親しくしたことがあったのかも、という錯覚を起こしそうになる。

音楽は、思ったより流れなかったものの、いつもiTunesで流している曲の別アレンジver.が流れてきて、ハモりながらうたたねをしたりした。

のどかで、贅沢な休日の午後。

 

きらきらした旅の中で、ひとつひとつのイベントをつなぐ道のりの中聴いたラジオは、それだけで、スノードームに入れる価値があるくらい、きらきらしていた気がする。

愉しかった旅のことは、またおいおい。