365日の宝くじ
秋である。
嘘でしょ、もうちょっと夏が続くんでしょ? と思っている内に、いつの間にかほんとうに秋になってしまった。
ここ最近の残暑には、毎年うんざりしていたけれど、ここまであっさり秋に入られると、それはそれで釈然としない気持ち。
おまけに、朝の5時に、ものすごい横揺れで目が覚めたり、起きてTVをつけるとしばらく寝ぼけているのかと思うほど、現実離れした街の様子がニュース番組から流れて来たり。
生きているというのは、ただひたすら、運がいい状態が続いているだけなんだなあ、と思う。
何事もない1日を、今日も明日も繰り返して行くことが、誰にとっても、そんなに困難でないといいのだけれど。
そんなわけで、目をこすりながら起き出し、食卓に着いて、半分寝ぼけまなこで食べる日々の朝食の記録は、たぶん、毎日宝くじに当たり続けている記録のようなものなのだと思う。
社会人になって以来、平日ちっとも朝おなかが空かない体質に戻ってしまったので、365日でその記録を取る確率が圧倒的に低いのが、口惜しいくらい。
最初は無理にでも食べてみれば、また、朝にはおなかが空く体に戻るのかなあ……。
ダイエットという観点から言えば、人生で唯一、ほぼ毎朝ごはんを食べていた大学生のときがいちばん痩せていたので、朝ごはんはきっと食べた方がよういのだと思う。
その分、朝ごはん=休日の朝という等号が成り立っていて、無条件にしあわせになる単語が人生でひとつ増えてはいるのだけれど、やっぱり、平日だっておなかを満たしている余裕のある生活がいい。
とはいえ、わたしの朝ごはんは、どんなに余裕があっても、至ってシンプルだ。
できるだけナイフもまな板も使わない、フライパンとトースターかオーブンがあれば完結するメニュー。
ベーコンをかりかりになるまで焼き、そのフライパンに卵を直接割りいれてかき混ぜ、塩コショウも直接してしまうスクランブルエッグを作りながら、パンをトーストとオーブンで温め、余裕があればコーヒーを淹れる。
今朝も、そんな何の変哲もないワンプレートで、ちょっとだけ特別だったのは、久々に食卓に上ったベーグル。
まだ上京してくる前、わたしはベーグルに狂っていた時期があり、その頃からいつか食べてみたいなあと思っていたBiO Cafe*1の蜂蜜フレイバー。
ぎゅっとつまった、引きの強い触感のものが好きなので、焼き戻したパリパリのクラムごともぎゅもぎゅと丸いまま齧るのがベーグルの醍醐味だと思っているのだけれど、こちらは、やわらかめのモチモチ派だと伝え聞いていたので、珍しくスライスして。
渋谷のスペイン坂という場所自体は、恐ろしく何度も通り過ぎたのに、「いつでも行ける」という怠慢で、なんと10年越しである。
水分の多い生地は、たしかにモチっとやわらかいのだけれど、いっそのこと瑞々しいという表現が似合って、しっかりベーグルの食感がする。
隣でわたしよりも更にぼんやりとした顔をしていた恋人が、せっせとオープンサンドを自作し始めたので、なんだかうらやましくなって、同じようにベーコンとスクランブルエッグをのっけて頬張った。
てっきり練りこまれているだけだと思っていた蜂蜜が、とろりとフィリングとして入っているポケットがあり、大人になってから好きになった甘じょっぱいコラボが、期せずして口の中に広がる。
BiOチョコを使ったベーグルも買ったので、明日の朝も、朝ごはんを食べてみようかなあ。
朝ごはんを食べたいなあという動機づけになるのは、だいたい、少し贅沢をしたおいしいパンで、最近の朝ごはんでおいしかったのは、グリルした夏野菜がのったもの。
野菜は摂りたいのだけれど、朝から生野菜を食べるのが苦手、という人間にはうれしい一品。
付け合せは、前の夜のトマト煮込みから取り分けておいた特別出演・ミートローフのようなソーセージと、こちらはどんな時でも定番のスクランブルエッグに、いつもなら敬遠するレタス。
じゅわっと甘みの広がる野菜をパンと共に頬張った勢いで、するするとその鮮やかなグリーンまで胃に収められて、思わずぎゅいーんと伸びをしたくなるような、元気の出る朝ごはん。
パンがない朝、買いに行くのもたのしみの一つだけれど、お昼が近いような時間帯、ブランチと言っても過言ではないときには、コーンフレークでお茶を濁すのも、また心たのしい。
ある日の朝ごはん。卵料理用の小さなフライパンで焼いたスクランブルエッグと、洗ってちぎっただけのレタス、久々のシャウエッセン。
卵の付け合せとしていちばん好きなのは、かりかりに焼いたベーコン。次がハム(これは焼かなくてもいい)。
それに比べて、子どもの頃、ウインナーやソーセージというものが、あんまり得意ではなかったのだけれど、大人になってビールを飲むようになったら、途端に好きになった。ちょっと大げさなくらい焼き目を付けて食べるのが好き。
コーンフレークは、ぜったいにびしゃびしゃにしないよう気を付けながら、食べる。とはいえ、急いでかきこむのはいやなので、ミルクはいつも少な目。
夏の喧騒を乗り越え、このためになんとかやってきたと言っても過言ではない、シルバーウィーク。
ばたばたし過ぎていた数か月、ここで心身のメンテナンスをしよう……と思っていたので、ひたすらだらけるのを楽しみにしていた。
あれを観ようとか、これを読もうとか、それでもいろいろとインドアな愉しみは数え上げているけれど、久々に2日以上続けて、朝ごはんを食べられるのが、もしかしたらいちばんの楽しみかもしれない。