ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

27歳の#56

休日はできる限りすっぴんでいようと、隙あらばファンデーションをさぼるし、平日は5分でも長く寝ていたいがために、毎日F1のピット作業のような速さでメイクを終えるしで、ちっとも熱心なメイクマニアとは言えないのだけれど、コスメを集めるのはどちらかというと好きな方だ。

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その中でもいちばん多いのがリップ関係で、10代の頃はグロスが色違いでごろごろとポーチの中転がっていたし、20代になるとそこに口紅が加わり、小さな鏡の前はとても賑やかになった。

チークやアイシャドウと違って、多少冒険をして、途中でしっくりこなくても、すぐに落とせること、1日の間で何回もまったく別の色や質感をのせ直すことも可能なことが相まって、数を持っていても実際に使う機会があるというも大きい。

でも、それよりも強い理由があって、それはずっと、“この1本”*1を探しているからである。他に何のメイクもしなくても、唇だけは彩っていたい。それだけで、ちゃんといい人生を送れそうな気がしてくる。

 

だから、口紅ならいろいろと持っている。それはそのまま試行錯誤の歴史で、並べてみると圧倒的に赤が多い。

初めて買った口紅デビューのメイベリンのラメ入りの赤、大学生活は頼りきりだったレブロンのSMART RED、親友に会いに行った京都で買った“よーじや”*2の紅絹は例外的にサーモンピンクで、オレンジ系もいくつか試して、好きになった。

他にも、妹がちっとも似あわなかったBODY SHOPの深い紅、母からおすそ分けのあったSHISEIDO、いただきもののDior#999やアナスイの流れ星リップ。

働き出し、新年を迎えるたびに口紅を新調する習慣ができ、その1弾目であるエスティ・ローダーの2本と、2弾目のYSL*3。そして、まだ使っていないクレ・ド・ボーのベージュピンクに、この間届いたばかりのゲランのKISS KISS。

リキッドルージュや最近台頭してきて久しいクレヨンタイプ、果ては色つきリップまで含めるなら、エトセトラエトセトラはどこまででも続く。

面白いのは、これだけ手持ちがあっても、たとえばひょいっといただくと、思わず歓声を上げてしまうのはやっぱり口紅だということ。もしかしたら次の1本が、“その1本”かもという期待で、新しい口紅と出会うのは、いつまでも心躍るセレモニーだ。

 

だから、この夏、ひとつ年を取り、ある意味ずっと目指していた数字を年齢欄に書く日々を迎えるにあたって、思った。何を祝うでもないけれど、27歳になるのであれば、27歳と言う年齢にふさわしい口紅を1本、新調しようと。

それならばCHANELしかない、という気がしたのは、同じく感慨深かった年齢の節目節目に、母から贈られたのがCHANELだったからかもしれない。

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ブランドだけは決まっていて、でもどのシリーズにするのか、もっといえばその中のどの品番にするのかというのは、結局最後まで迷った。

迷いすぎて、一足先にもらった27歳祝いのさいころで決めてしまったのだけれど、最終的にはこの半年、ずっといいなと思っていた“ルージュココシャイン”の#56 CHANCEに。

“CHANCE”と言えば、香水好きのわたしにとっては、あの瓶に抱き着き、頬ずりしてうっとりと目を閉じる広告のイメージの方がなじみ深い。ストレートにもほどがあるような前向きな名前が素敵で、手を出したいなあと思いながらもなんとなく縁がなくやってきた香りである。

そちらの憧れもあわせて叶えられたようで、やっぱりこの色にしてよかった、とやってきてから1ヵ月強、ただ眺めてはにやにやしていた。

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迷った理由はただひとつ、わたしの“1本”は赤に限る、とずっと思っていたこと。

そして、そもそも#56の色出しが、ほんとうに曇りの1点もないかわいらしい青味ピンクで、ちょっとこのレベルに可憐なピンクを、照れずにつけられる自信がなかったからである。

実際、まじまじと眺めてみると、思っていた以上に可憐な色で、見ているだけで照れてしまいそうなピンクである。これが洋服なら、絶対に選ばない色だ。

 

だからと言うわけではなく、誕生日に間に合わなかったのでなんとなくつける機会を逃しており、今日はじめて、おろしてみた。

1週間で二度もお芝居を観るというので、気持ちが昂揚していたし、すべてのお出かけの中でいちばん、しゃんと背筋が伸びるメイクをしたくなる場所なので、使い始めるなら今日しかないという気がした。これを逃したら、たぶん新年までその機会が伸びる、とも。*4

それなら、淡いパープルのシャツワンピースを着よう、靴はシックに黒とキャメルのコンビにしよう、髪は久々に巻いてハーフアップにしよう、と考え、楽しくなる。

一般に、お洒落な人は靴からすべてを決めるといわれるけれど、わたしの場合は、唇から逆算してすべてを決めるのが、いちばんしっくりくるかもしれない。唇の色と質感そのままに、コスプレ感覚で仕上げるのも、とことん真逆に振って肩の力を抜くのもどちらも好き。

 

はじめて唇にすべらせてみた27歳の口紅は、とことん軽く、でもどちらかといえば紅い地の唇の色を消さなくとも、きちんと見たままにミルキーな発色をする。

そして何より、この唇をつけてばたばたと向かった今日のお芝居。なんと、人生で2度目の最前列(!)という嬉しいサプライズがあった。しかもあの大きさの箱では、もちろん初。

最初につけた日が、忘れられない幸運な一日となるなんて、なんて特別な口紅なんだろう、とちょっと感心している。

ずっと、1本だけ口紅を忍ばせておくなら、赤だと思っていた。自立した、媚びない大人の赤。

でももしかしたら、わたしの人生の1本は、巡り巡って、恥ずかしげもなく可憐なピンクになるのかもしれない。