夏は至りて秋も立つ
この間まで、部屋の中で一瞬クーラーを止めただけでも、汗が止まらなくなったのに、昼の日中にお昼を食べに外を歩いていて、「風が涼しいな」と思った。
今年の夏は何度か海も見たし、プールでも遊んだし、だらだら汗をかきながら瓶のままビールを呑んだし、頭をきーんとさせずにかき氷も食べきった。もともと花火にはそんなに興味がないことを思えば、ずいぶんと夏らしいことをした夏だった。
そうして、もう暑さにげんなりしていた頃だったのに。
風が涼しいと感じた瞬間に、取り返しのつかない気持ちになった。
夏のずるいところは、この「取り返しのつかない感じ」だと思う。他のどの季節も、もう少しなにかできたはず……とは思わないのに、夏だけは必ず考える。それはどれだけ実際に楽しんだかどうかとは関係ないのが、またふしぎなところだ。
今年の夏は、たしかにもうたいがい遊んだはずだ。
7月の連休には、数年越しで念願だった鎌倉を訪れた。近くていつでも行けると思っていたら、びっくりするくらい行かないまま年月が流れていた鎌倉。
朝早い電車に乗って、朝ごはんを食べ、海を見て、お昼ごはんを食べて帰ってこようという元気があるのかないのかわからないプラン。
早く出たかいがあって、ほとんど並ばずに海沿いのパンケーキ屋さんで、ぜったいに間違いないパンケーキを食べられた。
ふわとろのパンケーキ自体にほぼ甘さがないので、しっかりメープルシロップをかけて。ちなみに、添えられたハニーコームバターが悪魔的においしくて、これだけ永遠に食べられそうなくらい。
メープルシロップがあまり得意ではない恋人は、ハードなパンに苦戦しながらオープンサンドイッチを食べていた。
アボカドとコリアンダーがこぼれんばかりに載っていて、その上からぎゅっとライムをしぼって食べるやつ。塩コショウをして、追加で注文したポーチドエッグの黄身を割って。
追加のポーチドエッグ分、おなかがいっぱいになったよう。それにしても、サンドイッチにライムをしぼるのっておいしいんだなぁ、と一口もらってびっくりした。
朝ごはんを食べ終わっても、まだ7時半過ぎ。
そのまま、目の前の砂浜に出ると、そこはもう完全に夏だった。
サーフィンをする人たちがメインなので、人はたくさんいるけれど、砂浜にはまばら。
故郷の海と同じ感覚で波打ち際を歩いていると、びっくりするくらい強い波に、ワンピースの裾あたりまで、あっという間に濡らされる。
満足するまで波に乗る姿を見て、そろそろ行こうかと階段を登っても、まだ9時前。あっという間に、ミッション2までクリアしてしまった。
せっかくなので、ぼんやり江ノ電に乗って、あじさいの名残を見に行くことに。
もともと、鎌倉に来ようと最初に約束したのは、数年前のあじさいの季節で、それがいざその日になってみたら、雨と頭痛のせいで流れてしまって以来、すっかりなんとなくタイミングを逃して、2018年まで来れずにいたので。
咲いていないならいないで、と言い合いながら、小さな電車に乗った。