川を渡って
長々と続いている京都記。
鯛茶漬けが食べられたらそれでいいや、という姿勢が嘘のように、意外といろいろなことをしていたみたいだ。「ぜったいにしたいこと」がたくさんなかった分、混んでいるところはパスをして、するするといろんなところを巡れたせいかも。
あの三連休は、後半の方が盛りだくさんだったので、キリのいいところまでで初日の京都編は切り上げようと思うのに、なかなか書き終わらない。
というわけで、竹林を堪能した後、大きな流れを逆流して進むと、難なく嵐山のメイン通りに辿り着いた。
たくさんお店が構えられていて、道の作りがまずにぎやか。
涼と塩分を求めて入った梅干し屋さんでたくさん試食をさせてもらい、帰り道で買うことを決意して、いざ渡月橋へ。
道中、浴衣を着ている女の子とたくさんすれ違う。
以前京都に来たときには、いわゆるモテ浴衣的なものが圧倒的に多かったのだけれど、今はちがうんだなあ。ぱきっとした派手な色がだんぜん多くて、たぶん、インスタ映えするからだと思う。
辿り着いた橋は、見事なものだった。
といいつつ、ほとんど橋自体の写真がないのだけれども。というのも、早々に川に降りてしまったから。
脚を浸して川辺に座ると、ひんやりと冷たくて気持ちいい。対岸がものすごく遠くて、ちょっと浮世離れした川だ。
だいたい海と川は年中いつだって行きたい場所だけれど、こんなにすこーんと抜けるように明るい川辺なんて、なかなかなくて、橋から見下ろしているだけでうれしくなってしまった。
意外にも川辺にまで降りられるようだったので、そそくさと橋を降り、水際に近づく。いい大人のすることではないんだけど、いい大人になったからこそしたいこともあるわけで。
スニーカーを脱いで、ソックスを脱いで、川の流れに脚を浸したときの爽快感!
あんまりにも暑い日だったので、水面から出した瞬間に、濡れた肌は高速で乾いて行く。もっとも、太陽は水に浸かっていないところにさんさんとふりかかっているわけで、なかなか長居はできないコンディション。
それでも、ずいぶんねばってのんびりと橋を見上げ、川を眺める。
話しやすいも話しにくいも、もはやない関係だけれど、こうして水の近くに並んで座っている瞬間がいちばん、なんでも言える気がするせいかもしれない。
話してもいいし、話さなくてもいい。話したことはそばから、さらさらと水に流れていくと思うと、どんなことでも打ち明けられる気がする。
もっともこのときはたいしたことのない話ばかりしていて、もはや会話の内容を覚えていないくらい。
15分ほど経って満足したので、熱中症になる前にと腰をあげたときには、少しだけ教徒が親しい場所に思えた。
遠く見えた対岸まで橋を渡って行くことに。
橋の上で写真を撮りながら、そういえば、この通り、見たことがあるなあと今更ながら気づく。たぶん、大学生のときに来たことがあるのだ。しばらく行くと足湯がある小さな駅があるんだっけ……とするすると思い出す。
あのときには、修学旅行のシーズンに当たったのか、今回よりもずっと混んでいた。
橋を渡るとふたたびくったりしてしまい(ほんとうに暑い日だった)、もう大人なので自分たちを最適に甘やかして、すぐに目についた甘味処に。
ぜったいに途中で飽きるので、誰かといっしょじゃないと頼まないかき氷があまりにおいしそうで真剣に悩む。
でも、せっかく京都に来たのでここはぜひ、なにか抹茶を摂取したいという欲が勝り、かき氷1個、抹茶ミルク1杯をそれぞれオーダーしてシェア、という形に最終的には落ち着いた。
結果的にはこの後、抹茶は選択肢にないお店ばかりになったので、いい選択だったと思う。
半分うとうとしながら、冷たいものを堪能して、この後の計画を立てる。
だいたい私が木屋町のバーに行きたいなどと行っていたので、早めに嵐山から引き揚げる予定だったのだけれど、だんだんとこちらでのんびりしているのが楽しくなったので、それは次回にすることに。
それならということで、調べてちょっと気になっていた、銭湯をリノベーションしたカフェを目指して、もう少しぶらぶらしてみることにした。
たっぷり涼んで表に出ると、ようやく午後4時。
それにしても、写真を見返すと人が写り込んでいるものが少なくて、やっぱりこの日の嵐山は空いていたんだなあと思う。
一日がほんとうに長い。まだまだなんでもできる、と思いながら来た道を戻る。
果たして、記憶の中の「足湯のある駅」は嵐電の嵐山駅だった。この駅は、まだ日が明るいうちからお祭りの夜のような空気でたのしい。
エクストラコールドが売られているのを見て、そういえば今日はまだ1滴もアルコールを摂取してないね、と言い合う。だいたい旅といえば、水辺でアルコールを摂取していることが多いのでたしかに珍しい。
こんなに暑いと飲みたくなるお酒は断然ビールなのだけれど、京都とビールという組み合わせがあんまりしっくりこなかったせいかもしれない。
この駅で、恋人は結局、ビールではなく金魚の柄の手ぬぐいを買っていた。京都らしさが優先されたらしい。
ずっと道なりに戻って、先ほどのお店で梅干しを買い、嵐山最後の目的地に向かう。