鯛茶漬けは嵐山で
というわけで、のんびり京都駅で朝を過ごした後、ようやくお目当ての鯛茶漬け目指して嵐山へ。
駅に着くと、この道? とびっくりするような細い道を、人がどんどん進んでいく。その後ろを辿っていくと急に道が開けて、右手に短い列が見えた。HANANA*1というお店。
人力車のお兄さんたちが、お店の前を通るたびに「こちらは有名な鯛茶漬け屋さんで、こうしてお昼時には行列ができるんですよー」と言って去っていく。
短いと思ったのは、外に出ている列が全体の半分くらいだったせいで、暖簾をくぐってからもう少し列が続いている。暖簾をくぐるとベンチがあるし、日陰になるので、待つのはさほど苦ではなかった。
外で待つのが長いと、さすがにこの時期は熱中症になりそう。わたしはあんまり好きじゃないのだけれど、日傘と扇子を持っていてよかったな、と何度も思う。
30分ほど待って、店内へ。
入ってみて、早速びっくりする。店内はかなりゆったりした席配置になっていて、たぶん東京なら1.5倍の席を設けるのでは……というスペース感。変な話だけれど、「京都に来たのだなあ」とその瞬間にしみじみ実感した。
鯛茶漬けは、きれいな御膳で出てくる。
それぞれは小皿に載っているのだけれど、ごはんがおひつで出てくるので、かなりのボリューム。お野菜がものすごくおいしかった。五臓六腑に染みわたる薄味に歓喜。
たっぷりの香の物も、すっとした味で変なしょっぱさがない。お漬物好きなら、これだけでごはんが進んでしまいそう。
最初の一杯は、たっぷり胡麻がまぶされたタレは控えめにかけ、薄造りと白いごはんといっしょに食べて、お刺身定食気分を味わい、次にじっくりタレに浸かったものを漬け丼のようにして二杯目を。
ごはんは、あくまで軽くよそうのがキモだと思う。お茶碗に六分目くらい。そうじゃないと、野菜にボリュームがあるので、なかなかお茶漬けまで辿り着けない気がする。
この上に、更にすり胡麻をたっぷりと載せることもできて、好みの味にアレンジできるのも楽しい。
わたしは、ちょっと追加した方が好きだった。香りが立って、風味が増す気がして。
昔から鯛のお刺身は好きだったけれど、こういう食べ方は地元ではしなかったので、何度食べても新鮮に感じる。
もともと漬けが好きなので、わたしはいちばんこの段階が好きかも、と思いながら二杯目をたいらげ、三杯目でようやく念願の鯛茶漬けを作る。
先ほどまでより更に、気持ち少な目のごはんに、数枚お刺身をのっけて、タレもしっかりめに流し入れる。熱々の煎茶をたっぷりかけて、最後にちょっとだけわさびを落として。
うーーーーーーーーーーーーーーーーん!
やっぱりお茶漬けがいちばんかも、とすぐに宗旨替えしたくなる味。
やわらかいお刺身にすぐに火が通って、それがほろほろとかきこむたびに崩れていく。こんな贅沢なお茶漬けを食べていいのかしら、と罪深い気持ちになるのは、味もだし、店内のしごくゆったりした雰囲気の相乗効果だと思う。
大きな窓からはまっすぐ生えた緑が目に鮮やかで、最後の一杯を何で食べるか思案しているときにようやく、あ、竹林だ、と気づいた。
悩んだ末に、初志貫徹で、最後の一杯はお茶漬けにすることに。
ちなみに、ごはんはおかわりできると聞いて意気込んでいたのだけれど、ちっともそこまで辿り着ける気配がなかった。お茶漬けを2杯もすすると、かなりおなかがいっぱいになる。当たり前か。
もうこれ以上、何も入らない……とお茶のおかわりをお願いしたら、熱いお茶と共にデザートが出て来た。
これがほんとうにとろける口当たりで!
入らない入らないと言いながら、するする完食してしまう。和菓子はあまり得意じゃないのだけれど、とても美味しかった。
あんまりのんびりしているのもなあ、と思い、その後はするっと席を立ったのだけれど、お昼の一時前という時間のせいか、お店を出るとさっき並んでいたときの比ではない行列ができていた。
子どもの頃、祖父母と食事に行くと決まって、お刺身が2種類出てきて、それがはまちと鯛だった。はまちは妹の好物で、鯛はわたしの好物。
当時、たくさん食べ過ぎたせいか、それとも東京だと地元ほどおいしい鯛をなかなか気軽には食べられないせいか、上京してからは「ふつうに好きなネタ」に成り下がっていたのだけれど、十年ぶりに、「一番好きなお刺身」に鯛が返り咲いた京都のごちそうだった。
腹ごしらえをして並ぶ価値がある三杯だったなぁ。普通の土日であれば、予約できる日もあるみたいなので、いつかまたふらりと食べに行こう。
ごちそうさまでした。