日曜日の音
日曜日。
お昼過ぎに唐突に家にいるのに飽きて、あてもない散歩に出た。
Tシャツにマキシスカートというのんきな格好で、すぐ帰るつもりだったので、日焼け止めもぬらずにふらふらと。
ストッキングを穿かないサンダルの足元はものすごく涼やか。そろそろビーチサンダルを出してもいいころかしら、と思う。
白と黒のボーダーのビーチサンダルは、数年前にサマーランドに行ったときに買ったもので、イエロー1色のものも気に入っていたのに、いつのまにかどこかへ行ってしまった。
どこかへ行ってしまったと言うのも変なもので、もう親に勝手に持ち物を処分されることもないのだから、自分で始末したのだろうけれど、ちっとも覚えていない。
ベランダ履きにして汚れてしまったから、引越しのときに処分したのだっけ。
外に出てみると、お昼にピーマンの肉詰めをつくった余波で、部屋の中がずいぶんむっとしていたのがわかる。昨晩の残りのごはんをおにぎりにして、昨夜出し損ねた冷やしトマトも出して、なんだかお弁当みたいなお昼ごはん。
わたしは休日にそういうごはんを食べるのが好きだ。それも快適な家の中で。おにぎりを食べたくなるのもだからたいてい休日だ。
ピーマンの肉詰めは、母の得意料理でわたしたち姉妹はこの料理でピーマンのことを好きになった。
なぜかいちばん最初に自分で作れるようになったレシピが、サバイバル料理の本に載っていた「ピーマンのじゃこ炒め」だったり、もともと特にピーマンが苦手だったわけではないのだけれど、でも好きになったのは間違いなくこの料理のおかげ。
ふつうのハンバーグよりもこっちの方が、家でしか食べられないので、むしろうれしかったくらい。
それにしても、ピーマンのじゃこ炒めの何がサバイバル料理だったんだろう……。
表に出ると、雲が多いけれどきれいな青が広がっていた。夏のような空なのに、暑過ぎないのでとても歩きやすい。
何度も歩いたことがある方向へ、いつもとはちがう道をたどって進む。細い道を歩くと東京でも人がちゃんと生活していて、上京してもう十年が経つのに、毎度毎度そのことにびっくりする。
歩きながら大きく伸びをして、さっきまでめがねをかけていた眉間を揉んだら、肩の凝りもすうっと空へ溶けていく気がした。
ぶらぶら歩いて、新しいお店を発見したり。
そういうのもたのしいのだけれど、ただ歩いているときにしか話せないことってあるなあ、と思う。特に重大なことではない、ささいなこと。でも、今すごく話したいなあということ。
その癖、そういうときいつも、ソ連に生きる主人公が「密談は公園でするに限る」と言っていた物語の一節を思い出す。
あれはなんの話だったっけ。映画だったのか小説だったかのか、それともまんがだったのか。
家を出るまで読んでいた小説にコーヒーが出てきたので、最後にスターバックスによって、なぜかコーヒーではなくティーフラペチーノを買って帰ってきた。
クラシックティークリームフラペチーノ。思いのほかしっかり紅茶の味がして、甘すぎずおいしい。
結局、コーヒー欲は、家で先週買ったライオンの絵のついたコナコーヒーを淹れて満たし、ピンク色のドーナツをかじりながら、ぱらぱらと読書をした。
昨晩録りためていた『僕だけがいない街』のアニメを今更一気見して非常に満足してしまったので、中途半端なものを見る気持ちにもなれず、TVはつけたり消したり。でも、あんまり読書もはかどらず、なんだかぼんやりした日曜日。
洗濯ものを土日両方回したし、しっかり自炊もして、洗い物もきちんとしたし、部屋も少し片付けた。結局帰ってきて換気もしたし、ウォーターサーバーの水も換えたし。
遊びに行きたい遊びに行きたいと思う気持ちと同じくらいの強さで、こういう当たり前のことを当たり前にする休日を求めているんだなあと思う。
晩ごはんは、昨日のロールキャベツで使い切れなかったキャベツをつかって、てんぷら粉でお好み焼きを焼いた。お好み焼き粉の賞味期限が豪快に切れていたのでやむをえず……だったのだけれど、意外となんとでもなるもんだなあ。
子どものころ、お好み焼きといえば日曜日のごはんだった。それも、家で作ることはほぼなく、いつも同じお店で外食と決まっていた。
たくさんマンガが置いてあるお店で、わたしはそこではじめて『金田一少年の事件簿』を知ったんだと思う。それから、『20世紀少年』を。他にも、そのお店でわたしはいろんな少年マンガと出会った。
父がじゅうじゅう音を立ててお好み焼きを焼いてくれるのを聞きながらだったら、あんなに不穏な金田一のお話も、ぜんぜん怖くなかったなあ。
焼き上がる前になんとかがんばって1巻読もうとして、それで、本を読むスピードが速くなったような気すらする。
ぱちぱちとソースとマヨネーズのはぜる音。青のりをふんだんにふる父の「もうすぐできるよ」の声と、青のりを嫌がる母のクレームの声。となりで同じように夢中で漫画をめくっている妹の真剣な横顔。
お好み焼きを焼く音には、守られていた平和な日曜日の名残がある。
来週が終われば、お互いに何の予定もない週末がしばらく広がっているけれど、無理に予定を作らず、こんな風にのどかな日曜日を過ごすのもいいなあという気がした。