オムライスはしばらくいいや
オムライスが好きだ。
子どもの頃に母が作ってくれた、たっぷりのケチャップライスを破れないのが不思議なくらい薄いたまごでフライパンの上、しゃしゃっと巻き上げる昔ながらのやつも好きだけれど、はじめてとろとろのものを食べたときに思った。
まちがいなく今日からわたしの「好物」はオムライスだ、と。
というわけで、ここ数年ずっと食べたかったオムライスを食べに、今週末は銀座まで行って来た。
ふわとろオムライス好きの方がこぞってオススメしていた、喫茶YOUというお店。
歌舞伎座の横にあって、そちらでやっていた新感線の舞台を観た際には時間が遅すぎて行けずじまいになっていたのを、恋人が週末銀座に用事があると言うのを聞いて思い出した。
思い出したら俄然食べたくなって、わたしも同行し、オムライスを昼食の予定として行程に追加してもらうことに。
夜に会食や飲み会で行くことの方が多いし、プライベートであの近くまで行くときは日比谷の方が俄然多いので、休日のお昼に銀座胃に行くのは、もう十年以上東京にいるのに数えるくらいだ。
行くと思うだけでうきうきする場所というのがあって、それを「街」という単位まで広げると、休日の昼下がりの銀座というのはダントツな気がする。
ぜったいに香水をつけて出かけたいし、ヒールで歩きたい。いつもはつけない余分なアクセサリーを手に取ってしまう「ハレ」感がある。
それはわたしが、江國香織さんの作品で大人になったせいかもしれないけれど。
というわけで、寒い寒い一日に、しっかり防寒をして、でもいつもならしないブレスレットやネックレスをつけて遊びに行った。
もっとも正確には、お店の最寄駅は東銀座で、駅の出口案内にしたがって進むと、急に視界が開けてびっくりする。
きっと年中こうなのだろうけれど、「お正月だー!」とものすごくテンションが上がってしまった。
にぎにぎしいという言葉がよく似合う、歌舞伎座の地下。そんな歌舞伎座の横にひっそりある喫茶店へ。
既にたっぷりお客さんが待っていたけれど、しばらく待てば入れそうだったので、いっしょに並んで待つことに。
少し待って案内された店内は、とってもレトロでかわいい。わたしはカメラは持っていないけれど、一眼レフを持っている人にはたまらないんだろうなあ、と思いながらきょろきょろ。
ハンバーグやサンドイッチもおいしそうだったけれど、ここはさすがに初志貫徹でオムライスを。
でも、サンドイッチも気になったなあ……。
並んでいる間は悩んでいた恋人の方が、あっさりと「オムライス」と注文を口にしていた。
フラットなケチャップライスの上に、こんもりとしたオムレツがのっかったスタイル。
お店の佇まいも、上に一文字に引かれているケチャップも、とても昔懐かしい感じなのに、このたまごが……! たまごが、ものすごく新しい。昔ながらのお店の一皿に、この表現もどうかと思うのだけれど。
何をどうしたら、こんなにふわふわのとろとろで焼けるのでしょう? というやわらかさ。
オムレツを真ん中からスプーンで割ってたまごを広げ、チキンライスを覆うようにして食べるのもおいしいし、このまま食べてもおいしい。
オムライスとしての一体感があるのは、圧倒的に開いて食べる方にもかかわらず、あまりにたまごがふるふるしていて、そのままでも何口か食べてしまった。
中学生のときにやっていた『ランチの女王』の影響で、お昼においしいオムライスが食べられる人生は、それだけで上等だと思って生きているのだけれど、このオムライスがお昼に食べられる人生は特上だと思う。おいしかったー。
レモンが浮かべられたジンジャーエールも、甘くてぴりっとしていて、正しく喫茶店の味がしてとてもおいしかった。
今まで食べた中とろふわ系のオムライスランキングでは、こちらがNo.1かなあ。
あまりに満ち足りたので、しばらくオムライスはいいや、と思ってしまったくらい。オムライスを食べたくないときなんて、今までなかったのに。
ちなみに、薄いたまごでくるんだオムライスはいまだに地元のものがNo.1で、よくよく思い返してみると、そちらも喫茶店のオムライスなのだった。
わたしの人生のオムライスは、いつも喫茶店にあるみたい。