5年後の不等号
続けて、那須のこと。
あまり目的のなかった那須旅行で唯一の目的らしい目的だったのが、SHOZO CAFEだった。1988とNASUの2店が栃木にあるらしく、今回は宿泊先に近いNASUの方へ。
目的とは言っても、「滞在中に行ければいいな」くらいだったのだけれど、思ったよりもするすると栃木県に入れてしまい、ナビで検索してみたら、まだ営業時間中だったので向かうことに。
那須の観光ロード(だと思う)沿いにあるので、場所はすごくわかりやすい! のだけれど、出ている看板が小さいので見落としそうになりながら、ゆるゆる駐車場へ。
日が落ちて少し寒くなってきたせいか、テラス席にはお客さんがいなかった。静かな那須の夕方。
入ってすぐにコーヒーや焼き菓子を売っている棚とショーケースがあって、それに気を取られながら、あたたかな店内へ。
何にするかしばし悩んで、「ケーキシエスタ」に。めったにこれず、どうせならケーキ(選べる)とスコーンのどちらも食べたいという旅人にはうれしい一皿。
スコーンとケーキそれぞれに、きちんと生クリームがついてくるのもうれしい。
ほろほろのスコーンも、焼きショコラのようなチョコレートケーキも、ぜんぶぜんぶおいしかったのだけれど、この生クリームが! 夢のようにおいしかった。
なんだったんだろう、あれ……。
さっぱりと清潔で、でもしっかりとこくがあって、たしかな存在感があるのに舌の上でするりと溶けて消えてしまう。
同じ生クリームが落とされたコーヒー・ラムクラシックも、それだけで甘いもの欲が満たされてしまうくらい濃厚でおいしかった。
飲み物に関しては、なんでもおいしいと思うしあわせな舌をしているので、飲み物に感動することってそんなにないのだけれど、これはほんとに一口飲んで唸ってしまった。ラムレーズン好きにはたまらない味!
あまりに好みで、ほんとうに滞在中にもう一度、これを飲むためだけに時間を捻出してこちらに立ち寄ったくらい。
恋人はシフォンケーキとウインナー珈琲を頼んでいたのだけれど、そのどちらもまた、とてもシンプルなのに贅沢な味がした。
特にウインナー珈琲は、脚の長いグラスに注がれた目にも楽しいビジュアルで出てくるので、とてもオススメ。
もしかしてアイスを頼んだっけ? と思って触れると、そのしっかりした熱さに二度驚く。
恋人は恋人で、自分のチョイスにいたく感動して、もう一度訪れたときに同じものを頼んでいた。
2回目は、晴れた日の午後早い時間帯だったので、少し待ってテラス席で1杯ずつお気に入りの飲み物を飲んで帰った。
少しの肌寒さは、自由にお借りできるブランケットで跳ね飛ばして、なんとなくここで読みたくなり、10年ぶりくらいに読み返す『こうばしい日々』を片手に、オーダーが届くのを待つ間もたのしい。
3世代でいらしている方もいて、木の中で食べるたくさんのサンドウィッチ(!)とピザトーストが、とてものびやかでおいしそうだった。
このカフェ自体はもう何年も前から知っていて、それは当時、スコーンに夢中だったからだ。こちらのスコーンは当時から有名で、いつか那須に行くついでがあったら行って見たいなあと思っていた。
実際、あたためられたスコーンは堅実でやさしい味がし、おみやげにと何個も買って帰ってきた。
でも、時を経てようやく訪れてみたら、おかわりをするものが、長年焦がれたスコーンではなく、はじめて飲んだ熱いコーヒーだったというのもまた心愉しい。
15年以上紅茶党だったわたしが、ここでコーヒーをいちばんおいしいと思うには、この5年間という期間がたしかに必要で、だんだん深くなっていく那須の夜の中で、わたしが今口にしているのは「時間」だなと思った。
フットワークが軽くありたい、というのは毎年立てる今年の目標のひとつ。
でも、もしかすると、行きたい場所にすぐ行けることだけが、しあわせなのではないのかも。
ようやくわたしも、待つことのたのしさがわかるようになってきたみたいだ。