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ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

卒業できないメープル

秋の終わり、珍しく、繰り出し式じゃないルージュを買った。

https://www.instagram.com/p/BCmMwTsL5cS/

唇が上下共にしっかりあるのと、最近の「にじませリップ」なんてありがたい流行のおかげで、ほとんどのリップは、ポケットやバッグから取り出したそのままで塗ることができる。

まるで、リップクリームみたいに。

そんな甘やかされた身には、鏡がないとつけられないのが億劫で、頂き物でたまたまということはあれど、あまり自分では選ばない形状だった。

なので、1シーズン過ぎた今でも、「口に色を」と思ったときに、まず最初に鏡を探すひと手間があるのが、まだまだ新鮮である。

 

秋口からずっと誌面に溢れていたバーガンディーやレッドブラウン系は、大人になったら使ってみたい色の筆頭だった。

ずっと赤系統の色で唇を染めてきたので、濃いピンクとは違って、いつか気負いなく使えるだろう、という期待もぼんやりとしていた。

でも実際には、わたしが大人になっても、流行っている赤は真紅で、だから9月ごろに美容雑誌をめくったときには、「ついにきた!」と思ったことを覚えている。

購入したのは、ロレアルパリの“エクストラ オーディナリールージュ”*1というリキッドルージュ。

こちらは、まずは何かお手頃な値段で……と探していたときに、見つけたもの。#307 メープルフラッシュ。

https://www.instagram.com/p/BCmM20TL5ch/

ほぼこの写真通りの、暗い紅色で、唇にのせてもほぼこのまんまの色で発色する。

1度塗りだと、発色がしっかりした色つきグロスのように、ほんの少し、地の唇が透ける。2度塗りすると、口紅を塗った上で、同系色のグロスを塗ったようなこっくりした仕上がり。

どちらも今年の秋の気分に合っていて、11月は、ほぼこの色に唇を染めていた。

 

色味が近かった、RIMMELのマシュマロルックリップ #015メルティレッド*2と最後まで迷って、最終的には、1本でも唇が乾かなさそうだったのでこちらに。

 

と言うのは表向きの理由で、ほんとうの理由は、色の名前にどうしょうもなく弱かったせいだ。

いちばん自由でお気楽だった大学生の間、TVにかぶりついて、フィギュアスケートを観ていた。

その内、会場にも足を運ぶようになり、スケートを好きにならなかったら、おそらくこの人生ですれ違うこともなかったであろう方々と、愉しい時間を過ごしたりした。

その最初のきっかけが、カナダ出身のジェフリー・バトル選手だった。

験を担ぐタイプなのが高じて、試合の前やショーの前には、ついついメープルのものに手が伸びた。

それで何が変わるとか、そんなことはもちろんないのだけれど、なんだか応援している選手への「祈り」の延長として。

 

その後、思っていたよりも少し早く、彼は引退した。

たぶんわたしがこれまで応援してきた、すべてのスポーツのどの選手よりも、いちばん、自分のアスリート人生に満足したような最高の笑顔で。それはもう、清々しいタイミングで。 

ジェフリー・バトル アーティスト・ブック

ジェフリー・バトル アーティスト・ブック

 

 「最高の時に幕を下ろしてほしい」「でも、もっと観ていたい」と、アスリートを応援していると、常に胸の中に相反するふたつのわがままな感情が巣食う。

そのもやもやしたものがふっと吹っ飛ぶような、「本人の意思による幸福な幕引き」で、おまけに、引退した方が日本では頻繁に観られるようになるわで、ファンとしてもずいぶんと不思議に幸福な「引退」を味わった。

だからだろう。

定期的に会場までフィギュアスケートを観に行く習慣がなくなった今も、そこかしこで“メープル”という表記を見ると、ついわたしの頬は緩む。

そしてほぼ同タイミングで、お財布の紐も緩み、そういう経緯でこのルージュもわたしのポーチにやってきた。

 

どうやらわたしは、「卒業」というのが上手くできないらしくて、たとえ気持ちが落ち着いてしまったとしても、一度好きになったら、物も人も、ずっと心のどこかにしまっておいてしまう。

月日が経つにつれ、だんだんと、しまい込んでいたことさえ忘れてしまうことも多い。

でも、それは決して消えるわけではなく、その過去の断片が、こうしてふわりと今のわたしの気持ちを動かして。

天気の良い午後、散歩の途中で通り過ぎた小学校の窓から、ふいに懐かしい歌が聞こえたような、明るく眩しい気持ちになる。