渇いた冬の気付け薬
乾燥とは縁のない人生だったのに、今年はなんだか乾いている。
それが不思議なことに、右手の甲と唇だけで、たとえば左手の甲だって既にもう感想の気配もない。
あまりに局所的で、理由がよくわからないまま、乾燥したのを放っておくのもいやで、珍しくこまめにハンドクリームを手に取っている冬。
バッグの中には万能タイプのバームをぽんっと投げ入れているし、デスクには定番ロクシタンのちんまり常備されているという異常事態。
例年と違う事と言えば、家でも頻繁にエアコンを付けるようになったことくらいなので、それが怪しいなあとは思っているものの、それにしても右手の甲だけって……なんなのだろう。
家でメインとして使っているのは、ARGELANのもの。
ずっとラベンダーの香りだとずっと思っていたくらい、ハーブの匂いが強い、#HERBAL ROSE。
シンプルなパッケージとたっぷりした容量が安心感があって、でも素っ気なくはなく、気に入って使っている。
すーっとしたハーブの香りは、ふだんはあまり選ばないけれど、ここまで乾燥が気になっていると、「しっかり薬用」という感じがして、なんだか心強い。
ここまで香りがあると、ちょっと気になるので、それも家専用で使っている理由のひとつだったりもするのだけれど。
体の他の部位(たとえば脚)が乾燥しているのとは、手の場合は、ぜんぜん違う。
一日中、ふとした瞬間に目に入るので、手が荒れていると、ついつい心までつられて荒らしてしまう。
とはいえ、体の感想も放っておいていいわけはないので、ひさびさにボディクリームをひとつ使い切った。
My Little Beautyのミルククリーム。いつかのMy Little Boxに入っていたのを、ようやく引っ張り出してきた。
2か月弱で使い終わって、代わりに新しくおろしたものも、My Little Boxに入っていたもの。Kneippのレモングラスの香り。
すうっと肌に伸ばした瞬間、周りの空気がきれいになるような、清潔な匂い。
考えてみると、今年おろした保湿アイテムは、わりとユニセックスなものが多いなあ。パッケージも香りも。
上記のハンドクリームと同じく、しっかりハーブで手当てをしている、という感じがして、蓋を開けるたびに、なんだか昔読んだ物語の中で、傷を負った主人公がもらっていたたハーブを煎じた薬を、手にしているような気分になる。
香水も、あまり甘やかなものをつけないまま、耳がきんと冷えるような季節が過ぎ去ろうとしているし、今年の冬は、例年になくさっぱりとした気分。
着ている服も、すっきりしたシルエットのシャツやニットが中心で、スカートのラインも、だんだんフレアからタイトになってきて。
今年は妙に、素っ気ないほどにシンプルなものが、しっくりくるみたい。
それに伴い、去年は甘いバニラのグロスタイプだったリップケアも、今年はグレープフルーツの香りが爽やかなBURT'S BEESのスティックタイプに。
撤退してしまったと聞いて、後生大事に仕舞い込みかけたところで、すぐに「再上陸する」というニュースを小耳にはさみ、いそいそと最後の1本をおろすことにした。
ピンクのキャップにイエローの本体というカラーリングもかわいくて、BURT'Sのリップクリームの中では、これがいちばん好き。
そうでなければ、いっそ透けるように色が乗る、ティンテッドリップバームが好みである。
たぶん、自分が思っているよりも、わたしはこの冬、くさくさしていたのだと思う。
子どもの頃に読んだ小説の中で、大人の女の人は、たとえば鬱々とした船旅や、素晴らしいけれどともかく長い汽車の旅に、よくミントの小瓶を持ち込んでいた。
気分が悪くなったときのため、どうしたってむかむかしたときのため、そして深呼吸が必要なときのために。
ちょうどそんな要領で、この冬わたしは、無意識に柑橘を仕込んでいたみたいだ。
バッグの中に、ポケットの中に、それからリビングの一角に。
そんな渇いた冬を乗り越えて、春にはまた、甘やかな香りがまとえるようになればいいのだけれど、とリニューアルされたBODY SHOPの桜ラインのボトルを眺めながら、願っている。