ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

Cozy

数週間ぶりにのんびりとした週末。2日とも、一切電車に乗らず過ごしたのは、いったいいつぶりだろう。目が回るような日々が終わったらすぐにまた、という未来なのでともかくひたすら休息。

身に着けるものも、さらっとした生地のてろんとしたショーパンに、キャミソールという南国のような状態である。肌寒ければ夏用のアイスブルーのブランケットを巻きつけて。

10代の頃から、家の中以外では、ほぼ穿いたことのないショートパンツというアイテムは、だからこそ身に着けると恐ろしく身軽な気持ちになる。

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今年の夏はユニクロのリラコで。素っ気ないストライプにビビッドなリボンがかわいくて、ともかく肌にひんやりと冷たいので、脚を通すと途端に家から出たくなくなる。

今日など、ほぼずっと家で過ごして、なんだかもうずっとここにいられるなあと思った。あれもこれも観たい、あそこにもここにも行きたい! とフットワーク軽く遊ぶのも好きなのだけれど、自覚しているよりずいぶんと、ここ数か月の疲れは深かったみたいだ。

寝返りを打ったときにずれたカーテンの間から入ってくる太陽の光で目が覚め、iPhoneを見たら、思いのほか早い時刻なことがうれしくて、2日とも、朝ごはんだけ食べて存分に二度寝をした。

朝起きるとまず、家中のカーテンを開けるのがしあわせな季節になってきて、わたしは最近、窓の近くにばかりいる。

苦手な虫が入り込んでこないよう、網戸の隙間がないかを執拗に確認しながら窓も開け放つと、初夏の風が平日淀んでいた家の空気をさあっと一掃するように流れ込んでくる。

レースのカーテンが揺れるのがきれいな季節が始まったな、とぼんやり白い裾を眺めながら深呼吸をして、このままずっとこうしていられるなあと思う。学校でも、いつも窓の外を眺めている子どもだった。選択権があるなら、常に席は窓側を選んだ。

真昼間からシャワーを浴びたり、気になっていた片付けをだらだらとしたり、ひんやりした床に寝転んで何度読んだか数えきれないミステリーを、ぱらぱらと読み返したり。

そんなことをしていたら、あっという間にサザエさんの時間になりそうで、「さすがに少しは、何かあった週末だったと言えることもしたいかもしれない」と土曜の夜に思いついたせいで、今日はずいぶんと長い時間キッチンに立っていた。

まずは、数年ぶりにガラスのスクエア型を引っ張り出して、アップルケーキを。

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「手伝おうか」と作業の手を止めてキッチンに入ってきた恋人が、しょりしょりと紅いりんごの皮を剥いていく。片手にすっぱり収まる小ぶりなふじが2つ、あっという間に白い姿になっていく。

とはいえ、買ってきた材料を並べる以外に、特にその段階ですることがなかったので、大小2つの大きさにりんごがカットされていくのを見ながら、わたしはその切れ端をつまみ食いをして待っていた。

キッチンでつまむものの例にもれず、りんごはしゃくしゃくとおいしくて、砂糖で煮てしまうのがもったいないくらいしっかりと甘い。

鍋にたっぷりのりんごを入れ、火にかけるところからは、わたしが引き取り、「お手伝い」の主客転倒を正したところで何か音楽が欲しいなと思い、パソコンの代わりにTVをつけた。

ああ今日はこれを観るしかない、と、ひさびさにかけたのは『かもめ食堂』。 

かもめ食堂[Blu-ray]

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白い光の入り込む部屋の中、のんびりしたいときにはいつだって観たくなる映画で、観ると言うよりかけているという方が正しいのだけれど、ほんとうに、キッチンから眺めるには最適な一本だと思う。

画が綺麗とか、ずっと観ていないと筋が分からなくなる話じゃないから、とか理由はいろいろあるけれど、何よりも、キッチンに立っているのがうれしくなる。

わたしが混ぜ合わせた生地を持ち重りのするガラスの器に流し込み、オーブンに入れるまでの間、ダイニングテーブルで書き物をしながら待っていた恋人は、いつの間にか手を止めて観てしまっていたようで、最後30分はわたしもひさびさにしっかり見入ってしまった。

自分のすきなものを、はじめて観る人の横で観るのは、なんだかくすぐったくて、そして面白い。そこで笑うのか、と思わず横を見てしまったり。

久々に作ったケーキは、型が大きすぎたせいで、ずいぶんと平べったい姿に。実家で子どもの頃、母が使っていた電動泡だて器を引っ張り出して作ったホイップクリームに、シナモンを散らしてお茶を濁して。

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砂糖のほとんどをはちみつに変えたぶん、ざっくりとした甘みになったアップルケーキと、何杯でもおかわりしたいすっきりしたコーヒーをお供に、わたしもTVの前へ。

そのまま、最後の「いらっしゃいませ」までしっかり観てしまったせいで、晩ごはんは有無を言わせず、おにぎりになった。

それだけではさみしいので、メインはケーキと同時進行で仕込んでいた豚の角煮。

大好きだったお店のメニューから角煮が外れて久しく、それ以来、とんと食する機会のなくなった好物なのだけれど、よく考えなくても自分で作ればいいのだった。

休日のしあわせといえば、煮込みだと思っていた時期があったことを思い出し、家でのお休みを満喫するのなら、これはもう、今日は角煮を作るしかないという気がした。何はなくとも。

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約3時間、煮込んだり休ませたりしながら出来上がった角煮は、文句のつけようがなく休日の味がした。疲れからか、少し塩加減の強かったおにぎりも、最後に大根おろしをたっぷり入れて飲むお味噌汁も、すべて。

そんな風に休むのに忙しくて、金曜の夜からずっと読んでいる『夏のレプリカ』を、まだ半分も読めずに幸福に持て余している。ページが進まないことがしあわせなのは、一年でこの時期だけ。ほんとうに、この季節は、本を読むには少し、明るすぎるみたいだ。