ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

Tiramisu Hero

よく休んでいる、という言葉がとても正しい連日のお休み。冬の間にかなり(!)蓄えてしまっていたようで、ちょっとダイエットしなきゃなあ、と思いながら毎日いろんな誘惑に負けている。

そんな中、負けたいのだけれどなかなかチャンスのない誘惑もあって、たとえばそのひとつは瓶に入ったティラミス。

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ここ最近、瓶に詰まっているしあわせというのは、ちょっと前だと想像できないくらいより取り見取りに増えたけれど、その中でもティラミスというのはせっかく中が見えるのに、ずいぶんと配色がシックで、その分わたしには余計に好ましく思える。

とろりとしたマスカルポーネの白、ちらちらと除くスポンジのベージュ、そしてたっぷりとつまったコーヒークリームのカフェモカ。

きれいなゴールドの蓋もかわいく、ぺたりとはられたイラストもかわいくて、「所有したい」と思ったスイーツは久々かも。

ほんとうにかわいくて、今は手元にはないけれど、イタリアと猫という組み合わせで、手放したあの本をもう一度手元に呼び寄せたいな、と思い出したり。 

モンテロッソのピンクの壁 (集英社文庫)

モンテロッソのピンクの壁 (集英社文庫)

 

かわいい見た目に似合わず、ずいぶんとぽってりとしたフォルムで、中にはぎゅうぎゅうにおしこまれたスイートなティラミスが、たっぷりと詰まっている。2人で一瓶を分けても、という説明も納得のボリューム。

"The Tiramisu Hero"*1というこの心躍らずにはいられない瓶と出会ったのはまったくの偶然で、冬なのに人いきれで汗をかくような品川で、そこだけぽんっとテーマパークの匂いがする空間があった。

出張帰りでだいぶぐったりとして、まっすぐ家に帰ろうかなあと何度か思い、でも10分だけ何かいいものも見つけてから帰ろう、という健やかな好奇心を取り戻しつつあったことがうれしくて、少し寄り道。

そんな中ぽんっと目に飛び込んできた行列が、なんだかTDLでポップコーンに並ぶような明るさのある列で、わたしも加わってみた。

閉店ぎりぎり人の行きかう品川駅では、さすがに一番オーソドックスなものしか残っていなかったけれど、レモン味のさわやかな「レモンヒーロー」なんてのもあるみたい。

他のも試してみたかったなと思う反面、どう見ても1個で満足できそうな量なので、なくてよかったかもしれないという気もする。全種類そろっていた日には、しばらく毎日ティラミスを食べることになりそう。それくらい、どれもおいしそうで、そしてかわいい。

とはいえ、ケーキは好きだし、これまでの人生で、何度も何度も持ち帰った箱の中、鎮座しているのを眺めて来たけれど、実は、いちばん選ぶことが少なかったケーキである。

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だからと言って、嫌いだったわけでは、もちろんない。

生まれてすぐにいわゆる「ティラミス・ブーム」が来た世代なので、物ごころついたときには、田舎の小さなケーキ屋さんでもどこでも、あのココアパウダーがつんとおすましして座っていた。

ほんとうはチョコケーキがいちばん好きなのに、店頭で選ぶときには、きらきらとしたフルーツが上にのっかていないと「ケーキなのにさみしいな」と思う子どもだった。

フルーツが巻き込まれたロールケーキですら、「きらきらしてない!」とちょっとかなしくなってしまうくらい。

なのに、その中でも一等シックで、フルーツのかけらも入っていないティラミスだけはなんだか別格だったのは、きっと母がいつも選ぶケーキだったからだと思う。

コーヒー味だというのも大人に思えたし、それがリキュールだなんて、なんて大人な味なんだろう、といつも目の前のフォークで食べるには、少しとろりとしすぎているケーキを見上げていた。

わたしはとても優柔不断な子どもで、たとえば悩みに悩んでショートケーキを選んだあとで、妹のムースをひとくちもらわずにはいられない、という迷惑な姉だったので、最初にティラミスを食べたのは、だから「一口ちょうだい」に差し出されたフォークである。

飲み物のコーヒーが解禁されるよりだいぶ前、そして、もちろんお酒が解禁されるよりもはるか前。

「苦いしお酒も入ってるからほんとに一口だけ」と念を押されながら口に含んだティラミスは、今思えばほぼマスカルポーネの部分で、にもかかわらず「!」と目を見開いたことを覚えている。 

はじめて食べたティラミスは、思っていた以上に大人っぽい味がして、なぜだか、「これは高校生になったらお友達と外で食べていい味だ!」と年代まで限定したイメージがぽんっと浮かんだことも。

大人になったら、あそこであの人とあれを食べたいな、とはじめて具体的に未来を思い描いた食べ物が、この大人味のケーキで、だから「食べ物にもTPOがある」ということをわたしに教えてくれたのは、間違いなくティラミスである。

もちろん、その当時はTPOなんて言葉も、知る由もなかったけれど。

 

そういうわけで、まさかティラミスだけを買う日が来るとはなあ、と感慨深い気持ちで持ち帰った持ち重りのする瓶。

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ちなみに、イラストの猫ちゃんはお店の看板猫で、アントニオというらしい。

アントニオは産まれたときからローマの野良猫。
世界で一番美味しいコーヒーを入れる有名なカフェの裏で育ちました。
アントニオは、そのお店のコーヒーが、他の誰のものより
美味しい事を、よく知っていました。

そんな猫好きには喉を鳴らしたくなるような出だしではじまる「ティラミスヒーローのヒミツ」を知ると、ますますひいきをしたくなるティラミス。今だと、5/10まで横浜のマルイシティに出店されているみたい。

そういえば、いつも家族で買って帰る箱の中に入っていたわりには、一度も選ばなかった理由はもうひとつあって、わたしと同じタイミングでティラミスデビューを果たして以来、その大人っぽい味はわたしよりも妹のお気に入りになったからでもある。

もともとごはんもお酒のあてのようなものばかり好きだった子どもだったので、さもありなんといえばそうなのだけれど、あのとき以来、妹の選ぶケーキは、ショーケーキからティラミスに変わったのだった。

ティラミス特有のほろりと舌に苦い感じはもちろんしっかりあり、でも、どちらかというととてもまあるい味のする逸品で、このティラミスなら子どもでも食べられそう。

いつかわたしに姪ができたら、妹の家への手土産はこれにしよう、と今から決めている。そのためにも、もっと手軽に手に入れらるようになるといいのになあ。