ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

Chapter

しゃにむに走っている内に、気づけば、一年でいちばん好きな季節がやってきた。

夏には夏休みがあるし、夏から秋にかけてはいろいろとイベントがあるし、冬にはクリスマスと年末年始の大連休があるしで、楽しみなことはそれぞれにどの季節にもある。

けれど、そういうイベントの存在を抜きにして、一年で一体いつがいちばん好きかと訊かれれば、たぶんほんとうはこの時期なのだと思う。

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日に日にコートの中に着こむ枚数が少なくなり、ワードローブから毛糸で編まれたものが少しずつ減り、ある日外に出ると、一日前のきんと冷えてどこまでも清潔な匂いから、ふわりとやわらかい匂いに朝の香りが変わる。

最後には、行きと帰りのことも気にせずにコート自体を脱ぐ朝が来て、次の週末には桜を見に行かなくちゃ、と思い、その瞬間にあふれるようなそのピンク色が、青々とした葉桜になる様を思い出してしあわせになってしまう。

桜を見ると、「章が変わったな」という気がするのも、清々しくて好き。

桜は、花がこぼれるように咲いているのも好きだけれど、その後の葉桜がいちばん好きで、でもそれはまた別の話。

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とはいえ、次の週末には桜を見に行かなくちゃ、それが無理でも、その次の週末には桜を見に行かなくちゃ、と思いながら日を数えると、単純に華やかな気持ちになるのも事実である。

ほんとうは、桜味は何につけあまり得意ではないのだけれど(それが何であれ、桜餅の粉末を飲み込んでいるような気持になる)、この季節に出る桜フレーバーのものはちょくちょく買ってしまうのは、その浮かれ具合のせいだと思う。

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ほわほわとしているのに、後味がしっかりとしょっぱい桜色の飲み物で一足早い春を感じたのが、もう半月以上も前だなんて信じられない!

この半月くらいは、気持ちがばたついているせいか、ちっとも本が読めなかった。ようやく一息ついて頭がクリアになり、ひさびさに文庫を何冊か買った今週末は、10数日ぶりに活字をめくる時間を持てた。

今日は、朝から夕方まで、とても暖かかった今年の最初の週末のような気がしている。昨日は夕方、わりに寒くなって、マフラーとまでは言わないけれど、ストールを置いてきたことを少し悔やんだけれど、今日は日が暮れる一歩手前までぽかぽかと暖かかった。

朝10時ごろに起き出し、乾くのが格段に早くなってきた洗濯物を回し、久しぶりにした自炊の後片付けをして、片づけの中ではクライマックスだと思っているクイックルワイパーを家中にかける。

それでもまだ11時過ぎで、洗濯物を干した時に覗いた空もずいぶんと太陽が高い。それならと、ひさしぶりに一気に文庫数冊を読了。読みだせば一瞬なのだけれどなあ、と思う。

でもそもそもページをめくること自体が億劫になるときもあるにはあって、その1ページ目をめくることができるかどうかが、わたしの精神的なバロメーターになっている感は否めない。

疲れているなと思っても意外にするっと手が伸びるときもあるし、そこそこ元気なはずなのにどうしても数行以上集中できないというときもある。

今日読んだのは、河童やら天使やら吸血鬼やらが見える! と非現実的な症状を訴える患者の「病気」を、へんくつな病院の若手副院長がするすると診断するという、連作短編集。 

天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫)

天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫)

 

 1巻目が出たときに「これはたぶん好きなやつ」と言う匂いは感じていて、でも外れると悲しいからやめておこう、と手を引っ込めたはずなのに、ちょうど何か読みたいタイミングで書店に行ったら2巻目が発売されていて、ついまとめて買ってしまった。

読後の感想としては、ためしに1巻だけ買って帰ったのなら、きっとわたしは今週末2巻を買いに行ったでしょう、という満足度。

もともとキャラの立った探偵役が好きだし、ぽんぽんっと「はい、次!」というテンポの良さで、とんでもな謎がするすると説明のつく「症状」に落とし込まれるので、ミステリーで人生における「きれいなけりのつけ方」を補っている身としては、とても爽快。

もちろん中にはあまり後味の良くない謎もあるのだけれど、そういう意味でも、2巻まで一気に読めて読後感がだいぶ爽やかになってよかったかな、という気がしている。

 

同じく連作ミステリでテーマもの、といえば、わたしの最近のお気に入りはもうひとつある。ビストロ・パ・マルシリーズの2作目。

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前作『タルト・タタンの夢』は電子で読んだのだけれど、『ヴァン・ショーをあなたに』は、薄い桜色の表紙に巻かれたネイビーの帯がきれいで、続刊だけ買うのはと思いつつ購入した。

ヴァン・ショーというのは、スパイスをふんだんに効かせたホットワインのことらしく、季節的に読むのは今週末がぎりぎりかしらん、と慌てて読了。

お料理が絡んだ、生き死にの話も出てくるミステリというよりは、ビストロを訪れるお客さんの“思い入れのある一皿”をめぐる謎とその真相をおすそ分けしてもらう、というお話なので、読んでいてほんとうにおなかが空くこと以外は、とても読み心地のいいシリーズである。

実際、わたしもヘーゼル味のカフェラテを舐めつつ、まだ春本番には少し早い愚鈍な都会の空を眺めながら、我慢できずにチーズケーキも頼んでしまった。

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甘く爽やかに煮詰められた柚子のピールがたっぷりとのっかった、レアチーズ。中にもふんだんに細かいピールが入っているのに、ちっとも苦味がなくて爽やかに甘い。底に敷いてあるグラハムクッキーも、理想的な甘じょっぱさ。

お店のメニューからはホットワインが消え、サングリアが増え始める季節だなあ、ともう一度もらったメニューを端から端まで見ながら思う。

来年の冬には、ただのホットワインじゃなくてちゃんとヴァン・ショーを出すお店を探して、そこできっと同じ本を読もう、と鬼も笑うような予定を立て、今年の冬はもうおしまい! と、ぱんっと本を閉じた週末。

明日からは、春である。