ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

ときどき栞も使いたい

水曜日。ばたついている日々だけれど、今年に入って、本を読むペースは上がっていて、読了リストは順調に長くなっている。

とはいえ、わっと読んでわっと読まなくなってという突発的な読書が多く、栞を使うほどゆったり時間をかけて読むというのが、まだまだ少なくて、本好きとしては恐ろしく栞に愛着がないままこの年になってしまった。

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ざっと覚えているだけ書き出してみても、以下の通り。

  1. 『きのうの世界』上・下
  2. 『神様のケーキを頬ばるまで』
  3. 『うさぎパン』
  4. 『サンタクロースのせいにしよう』
  5. 『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』
  6. 『鳩の撃退法』上・下
  7. 『最後の晩ごはん ふるさととだし巻き卵』
  8. 目白台サイドキック』
  9. 『思いわずらうことなく愉しく生きよ』
  10. 『無名仮名人名簿』
  11. 『ニシノユキヒコの恋と冒険』
  12. ビブリア古書堂の事件手帖』2巻
  13. 『女のいない男たち』
  14. 『億男』
  15. 『家族シアター』

上下巻を2つ読んでいるので、実際は17冊+αという感じ。

長年の読書傾向と変わらず、そのほとんどがミステリに寄っていて、それもライトなものもちょくちょく入ってという状態だけれど、休日全部つぶしてという読み方をしていないわりには、なかなか順調な冊数である。

ついつい手が伸びてしまう再読を頑張って抑えながら、新しいものを読んでいて、はじめて読む作家さんもちらほら。

この中で唯一の海外小説で、電車の中で読んだ『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』は、ずっとタイトルと潔い黄色の装丁に引かれていたのだけれど、とても風変りなおかしみのある優しい話だった。  

銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件

銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件

 

比喩でもなんでもなく、ほんとうに物理的に「銀行強盗にあって妻が縮んでいく」というタイトルそのままの話だということにまず驚く。

タイトルだけで勝手にミステリだと思っていたのだけれど、全然違って、それにも驚いた。

銀行強盗に、お金ではなく自分の人生でいちばん大切なもの(他人から見るとどうでも良さそうなもの)を盗まれた人々にへんてこな事件が次々起こって……という話で、ともかく巻き起こるごたごたのいちいちが、ちょっと突拍子がなくてわくわくしてしまう。

奥さんが飴になってしまったり、突然、自分の心臓が爆弾になったことに気付いたり。最初から最後まで、ともかく風変りなことばかり恐ろしく淡々と起き、あくまでそれが日常の中に落とし込まれている感じが、大人のためのロアルド・ダールみたいだった。

 

そんな風に、買って30分でするすると読了してしまったものもあれば、1年越しにようやく重い腰を上げて読んだものもある。

『ニシノユキヒコの恋と冒険』は、ちょうど1年前、雪の降りしきる埼玉で映画を観た*1後に、一度読んだことがあったので少し悩み、結局、原作本を買った。

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買ったはいいものの、わりに内容をしっかり覚えていたのと、そもそも、とてもいい映画体験の記念として買った側面が強かったので、買ったことに満足してすっかりほったらかしにしていた。

1年経って、そういえば結局DVDを買わないままだなあ、と思い出し、少しずつあたたかくなってきてまた活躍し始めた窓際のソファで、ゆっくりゆっくり読んでいた『うさぎパン』を読了したとき、次はこれだな、と思った。

晴れた日の午後にソファにもたれかかって、だらだらとページをめくるなら、次はこれだな、と。

原作ではそれぞれ別のいくつかの恋愛が映画では、さらっとミックスされたり、換骨奪胎されたりしているけれど、おおむね原作に忠実だったのだなあ、と1年遅れの感想を抱いたりした。

最後の数篇は、新国立劇場でソワレとマチネの間に読んだ。

背の高いスツール椅子に浅く腰かけて、クッキーを齧りながら、それこそ帽子をかぶった小粋なおじいちゃんが次のお芝居のフライヤーを眺めているのを横目に、ぱらぱらと。

静かで天井が高くて、劇場のロビーで本を読むと言うのも、なかなかいいものだなあ、という気がした。

読んでいる間中、あのふわりと浮世めいたテーマ曲と、しゃぼん玉のあふれる時計台の場面、夏に焦がれてしまう映像の数々がずっと脳内再生され、ああ、あの映画を流しながら休日の午後を過ごしたいなあ、と思う。

いつも寒い時期に出会い、わたしはほんとうは暑くてだるくて夏は苦手なはずなのに、ついつい夏はいいなあ夏が来るといいなあ、と思わされてしまう本である。

 

同じように、1年越しでようやく読み終えた本がもう1冊。

神様のケーキを頬ばるまで

神様のケーキを頬ばるまで

 

それなりの量を読むので、そして本だけは一度買ったら決して捨てられないので、部屋に置きたくなるデザインかどうかは、最近わりに重要なポイントになりつつあり、これはそういう意味ではするりとレジまで辿り着いた。

連作短編という形式自体が好きだし、最近、ミステリばかりで、昔みたいに普通の日常をきれいに切り取る作品を読まなくなったなあ、と思っていたところだったので、内容にも期待していた。

にもかかわらず、1年かかったのは、ともかく最初の一篇が苦手だったから、に尽きる。

これはもう完全にわたしの趣味の問題で、どんな切り口だろうと、DV男の出てくる話は腰が引けてしまう。

決して暗いだけの話ではないのだけれど、主人公がお店に飾っている絵と同じくらい、しんしんと底冷えするお話で、寒い時期に読むには少しつらかった。そしてぱたりと本を閉じて1年。

そうは言っても残りのお話が気になり、続きを読み始めると、あっという間だった。

わたしは特に、ウツボのフィギュアを携帯する女性クリエーターと、実はプロレス好きのOLの化学反応に元気が出る『光る背中』が好き。自分には所詮7番目が似合う、とやさぐれている男の人の『7番目の神様』もよかった。

日常と言うものには、常にほんのりとした希望しかなくて、でもそれをちゃんと希望だと思えるかどうかで人生は素晴らしくもつまらなくもなる。そういうささやかな希望がつまった連作短編集だった。

 

というわけで、いろいろ読んだけれども、中でもいちばんよかったのは、久しぶりに読んだ辻村深月さん。

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わたしは、もうともかく、この人の書くものが好きである。書き方も、文章も、登場人物も、テーマも、何もかも好きである。

苦手なものも、興味がないものも、どんなものでも、この人が書くなら全部好きである。入っているお話のすべてが、それぞれいい。

そこまで書かなくても、というような、ひりひりするような心理描写が山ほどあるのに、いっそほとんどファンタジー的に優しい。正しくなくてもいい、掛け値のない優しさだけが人を救えるんだから、といつも思う。

まあ、あらゆる物語のテーマは愛だよね、と満足して本を閉じて、さあ次は何を読もう、と思っている瞬間がいちばんしあわせかもしれない。