HOLIDAY!
年末。年の瀬。後は新年まで、しなくちゃいけないことは何もないのだ。なかなかにしあわせな状態である。
くったりとした大きな皮のバッグに、防寒を気にしないワンピース、コンタクトと最低限のコスメ、充電をしたKindleとお財布だけ詰め込んで、ポケットにチャージされたSuicaとiPhoneを突っ込んで、まだ暗い内に東京の街を後にする。
わたしは、休めるのであればいつまででも休んでいたい、というだらけた性格だけれど、「今年もよく働いた!」と疲労と満足感のごちゃ混ぜになった乾杯をする仕事納めの日だけは思う。
たしかに、たっぷり働いた後のお休みというのはしあわせなものだなあ、と。
そんな日はふわふわと浮かれて、いつもは連絡を取らない人にも取りたくなる。だから、仕事納めの日は、一年でいちばん、わたしが社交的な人間になれる一日だったりもする。
たっぷり飲んで騒いで、翌日のフライトがあるので、それでもいつもよりずっと早めに解散をして、まだX'masの名残りがある部屋を少し片付けて、精を出してクイックルワイパーをかけたのを大掃除の代わりとする。
来年はもう数日東京にいて、きちんと大掃除がしたいなあ、と思いながら眠りについた。もう学生ではないのだから、もう少しお休みのタイムスケジュールは、ゆったりとしたものでもいいはずだ。*1
羽田空港に着いた頃には、ちょうどきれいに朝日が出ていた。電車の遅れも一切なかったので、随分と余裕があるフライトに。
今年最後かな、と思いながらタリーズのアイリッシュラテを飲み飲み、いつものターミナルはしっこの搭乗口まで歩く。
仕事で乗る時にも浮かれた時期が多いけれど、年末の空港というのは、その比ではない気がする。おもちゃ箱をひっくり返したみたいに浮かれていて、しかも自分もその浮かれ具合に混ざれるので、単純に心愉しい。
歩いているだけでわくわくするし、大きなスーツケースを引き引き歩く女の子のグループや、ぐるぐる巻きにマフラーを巻かれた子どもたちの手を引くお父さん。
誰もかれもが、「もう今年にはけりをつけたのだ」という清々しい顔でお休みに向かって急いでいて、人が急いでいるのを見てしあわせな気持ちになるのはこの時期だけだなあ、としみじみ思う。喧噪が楽しいのも、混雑が心から気にならないのも。
既に準備が済んだように見える飛行機を眺めながら、搭乗案内が始まるまでの短い時間でコーヒーを飲みほし、ちゃちゃっとリップメイクを。
別に飛行機に乗るだけなのだし、乗った先で会うのは十何年間ずっとすっぴんでしか会っていなかった家族だけなのだし、とすっぴんでやってきたのだけれど、やっぱり唇にだけは色が欲しくなる。
たぶん、他のすべてのメイクが社会性のためなら、リップだけはわたしにとって、純粋に個人的な悦びなのだろう。
バッグに入れてきたと思ったリップクリームが入ってなかったため、Dior#999ではなく、ブルジョワのBBグロス。見た目はかなりオレンジ寄りの#02だけれど、唇の上ではコーラルっぽく発色する。
1本でメイクアップ&スキンケア効果など5つの効果があるらしく*2、詳しいことはわからないものの、少なくとも使ってみると、リップクリームとグロスと口紅の3in1であることには間違いない。
いきなりえいやっと塗ってもほぼ荒れないので、この半年ほど、ほんとうに荷物を少なくしたいときには、たびたびお世話になった。その証拠に、中をのぞいてみると、残りわずか。
SK-Ⅱのアイシャドウといい、ちょうど年末に向かって切れかけていて、普段であればお気に入りのコスメが切れてしまうのはショックだけれど、この時期だけは、「少しずついろんなことが納まっていくなあ」とうれしくなる。
そして、飛行機へ。窓際の席で、小さな窓から入る光がやわらかでとても気持ちいい。
眠ってしまうかな、と思っていた移動だけれど、ふらりと入ったお店で江國香織さんの文庫が新しく出ていて、江國さんの新刊を見つけた際の常でついつい購入してしまい、膝の上には予定外の重みがある。
「空港が舞台の表題作」という説明を見て、今日これから本を読むならこれしかないでしょう、と3秒かからずお会計を終えていた。
せっかく昨夜ねぼけながらも充電して、いそいそとライブラリも増やしたkindleを持ってきたのに! とは思うものの、どうしたって紙で読みたい本もある。
膝の上で厚さを確かめるようにぱらぱらとめくったり、顔を近づけてインクのにおいをかいだり、途中で寝落ちてもう一度同じページを読んだり……と、余分な時間をいっぱいかけて、本自体のたたずまいを堪能したい本が。
そんな贅沢が、後は新年を待つだけの年末にはよく似合っていて、予定より少しだけ重くなった大きなバッグは、しあわせな持ち重りがした。