ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

なぜだか節度をなくす服

もう服はいらないでしょう、とひとつ買い物をするたび、最近自分でも心から思う。

クローゼットはある日突然広くはならないし、おまけにわたしは物持ちがやたらといい。加えて、なかなか物を捨てられない。10年選手が平気な顔をしてごろごろしていたりするので、もはや新しい顔が入る隙はないのだった。

にもかかわらず、いくら持っていても、未だに、似たようなベージュのニットに本気で心がときめくので、これは恋なんだと思う。それも半分、腐れ縁じみた悪い恋。よくないなあ、とわかっているのに、うっかりときめいてしまう。

 

その中でも節度がないのは、ボーダーとチェックを目にしたとき。

カジュアルが好きというよりは、嫌みのないセクシーさが好きで、体のラインが出る作りのものはすべて、いろいろなパターン違いと悩むまでもなく、ボーダーがいちばん欲しくなる。

3年ほど前に買った膝上丈のコンパクトなシルエットのワンピースも、腰から下だけ少しふわりと広がり、それでもきゅっとミニマムな印象。

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最近のタイトスカートの流れでも再確認したのだけれど、ぴたっと体に沿うものは、ボーダーがいちばんかわいい。それもこれも、(正確にはボーダーではない)ラムちゃんのイメージがぽんっと脳内に浮かぶせいだと思う。

それくらいタイトなボーダーは、下手に肌を見せたりするよりずっと安全に、“いい女”になった気分になれて面白い。

色は、ぱっきりした白黒のものより、ベージュとブラックとか、白とグレーとか、もう少しぼんやりとした配色のものが好き。できればピッチも細いものの方が女っぽく着られていいなあ、という気がする。

この冬は同じしましまでも、断然、ストライプの方が流行っているし、わたしもベージュに薄くストライプが入ったワンピースを買ったりしてしまったけれど、この配色のボーダーだけは、持っているとわかりながらも、店頭で見かけるとついつい手が伸びてしまう。

 

節度がなくなる、と言えば、一時期のわたしにとって「最高に節度がなくなる服」というのは、ワンピースだった。

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ちょうど大学生になったころ、「ともかく毎日ワンピース!」という大ブームが来て、ただ講義を受けるのでさえワンピース、という時期があった。

花柄や子どもっぽい形のミニはさすがに淘汰されたけれど、一方で背伸びをしたテイストの服も多かったので、当時手に入れたものでまだクローゼットに残っているものも意外に多い。

シンプルなものから、いつ着て行けばという派手なものまで、一通りのものは、あの時期に試した気がする。

カジュアルな色でも、ワンピースというだけでしっとりして、他のアイテムなら決して着ない色に手を出したりもした。

そして、ある日突然、飽きてしまったのだ。ワンピースを買うことに。

何を見ても「もう持ってる」ような気がするし、「まだ持ってない」ようなものは、どこへ着て行けばいいのかわからない。

着るイメージのわかないものは結局着ない、というのも、着道楽の大学生の時に学んだことであり、さすがにそういったものを手当たり次第に買わないと言う程度には、理性のある大人になった。

 

なのに、今年の夏、久々に「ワンピースを買いたいな」という気持ちになったのは、南の島に行くことになったからかもしれない。

働き出して急にワードローブに増えたスカートにトップスだって、シルエット的にはワンピースと変わらないものになるのだけれど、南の島に行くならワンピースがなくちゃ、と思った。

シルエットは同じでも、風通しが全然違う。胸元から入った風がそのまま膝に抜け、裾をふくらませる風が髪の毛をなびかせることだってできる。

ワンピースを身に着けると、身軽だなあとしみじみ思う。丈が長く裾の広がったものは、足さばきも楽しく、自由だなあと嬉しくなる。暖かいところに旅をするなら、スカートじゃなくて断然ワンピースだ、と浮かれた気分になった。

だから、今年は久々にワンピースを新調した年だった。

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旅先でも、さらっとした素材のものを3枚調達した。

パーカーとあわせてスポーティにも、パールをあわせてシックにも着られるモノトーンのものと、涼やかで鮮やかで、でも決して原色ではないきれいなグリーンのもの。きちんと裏地があるので、夏に1枚で着られるし、タイツやファーをあわせて、今の季節にだって着られる。

写真を取り損ねたもう1枚は、ボーダーとストライプの切り替えになっている、昔からの好きと今期の流行を折衷したようなデザインだった。

それでも、南の島だからと浮かれた柄を買うのではなくて、東京の冬にでも着られるものを選んだのは、少し大人になった証拠かもしれない。

 

たくさん並ぶワンピースを見ながら、それにしても、ワンピースと言うのは「浮かれる買い物」だなあ、と思う。

きれいなスカートを買うときにも昂揚感はあるけれど、ワンピースというアイテムには、他のどの服にもない軽やかさがある。1着手に入れるたびに、ふわっと浮世離れするような、とても幸福な軽やかさが。

これはやっぱり恋だなあ、と思う。よくないとわかっているのに浮き立つ感覚が心地よくて、新年に向けてもう1枚、とびきりきれいなワンピースを新調しよう、なんて、今年は最後まで幸福に浮かれたまま終わりそうだ。