ときどき晴れのくもり空

いつか想像してた未来と今が少し違っていたって

物語めいた街、青い看板

これからしょっぱい週末が続くので、いい週末について書く。

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これが上京した人にとって、一般的な状況なのかどうかはわからないけれど。東京に住み始めてもう8年以上(!)経つというのに、未だにわたしは降りたことのない駅の方が多い。

たとえば名前はよく耳にし、そこがどういう雰囲気の街かわかっているつもりなのにもかかわらず、実際には確かめたことのない街というのが、行動範囲内でも、多々存在する。

 

そのひとつが自由が丘で、雑誌や小説の中でのイメージばかりが膨らみ、なんとなくおしゃれでスイーツな街なんだろう、と思いながら、一度も改札を出ずにいた。

横浜に行く途中に「あ」と思うだけ。ここがあの、自由が丘なんだ、と。

だから、恋人の妹さんが自由が丘に行きたいと言っているのを聞いたときも、「あ」と思った。あの自由が丘か、と。地方の18・9の女の子が東京に遊びに来るとして、行きたい場所として名指しするのに、なんてふさわしい街なんだろう、と。

その流れで、そういえば行ったことないんだよね、と呟いた次の瞬間には、「下見に行こう」という結論になっていた。

 

せっかくなので、自由が丘でスイーツめぐり、というどうせならベタもベタな、初めまして2回目くらいのテーマで、名前ばかり親しい街へ繰り出した。

おろしたてのワンピースにおろしたての靴。実際に行ってみて思ったけれど、自由が丘というのはそういう浮かれたものがよく似合う街だ。思いの外、土曜朝10時の街の年齢層は若くて、駅に降り立つと、すでに甘い匂い。

 

朝ごはん代わりにと、まずは“Robeks Juice”へ。

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小さな道がこまごまと伸びており、わたしはあっさりと地図を見るのをあきらめ、便利なナビアプリという存在にすべてをお任せして、たどり着いた。

駅から5分くらい、という近さだったけれど、その間にジュース1杯では足りないくらいの渇きを感じるほど暑い日である。日傘をさしている人もたくさんいて、日傘というアイテムは、なるほど、たしかに自由が丘という街によく似合っていた。この街では、サングラスよりも断然、日傘だという感じがする。

 

その場で好きなサプリメントを足しこんでくれるという、なんだかやたらと健康的なスムージーで、あっさりと朝ごはん。

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恋人が選んだストロベリー&バナナは、おそらく31のような味を想像していたのだろう、一口飲みなり、「思ったよりもストロベリーより……」と釈然としない顔をしていた。

その感想を踏まえて一口もらったわたしも、結果的には、まったく同じ感想を抱いたのだから、味覚の記憶というのは、意外と強力なものだ。今、写真を見てみても、どう考えたって苺が強い色をしているのに。

わたしはスムージーと言えば、で長年浮気をせずにいるマンゴーにした。

初めてマンゴースムージーを飲んだのはたぶん、大学のある駅のエクセルシオールで、わたしはたしか買い物の帰りで、母と向かい合ってバスを待っていた。

人生でこんなにいい夏休みはもらったことがない、というような長い夏休みのはじめの方で、夏をそのまま飲み込んでいるようなその飲み物が、とても力強くおいしかったのを覚えている。

 

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ゆっくりとスムージーを飲み干し、少し調べものなどをして出てしまったけれど、アサイーボウルもおいしそうだったし、ソファ席もたくさんあるしで、たぶんいようと思えばかなりゆったりできるお店のようである。

風通しがよくて、明るく、そしてのんびりしていられるだけのスペースがある。

こういうカフェではなぜかMacを広げないといけない気がする、と前日画策していたのだけれど、ほんとうに半分以上の人がMacを広げ、なんなら、座った席では充電もできるようになっていたので、イメージ通り過ぎてそこがおもしろかった。

 

ジュースで軽く満足した後は、ものすごいチョコレートケーキを食べさせてくれるケーキ屋さんへ。写真禁止のようで、写真を撮っていないのだけれど、目にも美しく、そして何よりほんとうにおいしかった!

3つのケーキを2人で分けながら、これは女子大生のときに来るべき街だったなあ、と思う。この甘さとかわいさとおしゃれっぽさに、ちょっと20代も後半を迎えた身では、がっぷり四つで挑めない。

5年前であれば、ショーケースの中のケーキを、後2つは味見できたに違いない。

コーヒーまでいただいて、ほっと一息つき、ケーキはもちろんおいしかったけれど、この食後のコーヒーに何よりも心底ほっとするあたり、なんだかんだ言っても、大人になったのだなあと感慨深くなってしまう。

 

ひとつは腹ごなしに、そしてもうひとつは、“ベタなデート”だからという理由で、ケーキ1個半分の散策をする。どの角を曲がっても、少し日本離れした風景に出会うことができるのが面白く、どういう構造なのか、その路地路地で必ずさあっと風が吹いて、それがとても気持ちいい。

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緑も多く、建物は低く、迷い込むとおとぎ話の中のような外観の建物がごろごろ出てきて、ちっとも近くに海なんてないにもかかわらず、すぐそばに海がある気がしてくる。

海と言っても、砂浜のある海ではなくて、どちらかというと波止場のある海。船着き場のある海の方である。

風が吹くと、なぜだか近くには海がある気がしてしまうのは、きっとわたしが潮風が街にまで吹き抜けるような、こじんまりした瀬戸内海の生まれだからかもしれない。記憶の中での風と海とは、いつも1セットなのだ。

 

街の至るところで揺れるカラフルなフラッグはフラッグで、焼けた白い砂浜や、寝転んで飲む甘いお酒、大きなパラソルや麦わら帽子を思い起こさせる。

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街全体が、ただの土曜日なのに、夏のお祭りのようで、歩いているとどこか少し遠い場所に遊びに来たような気分になった。

こういう光景を見たことがある、と思う。ジブリとか、古い洋画とか、夢中でめくった絵本の中とか、挿絵のなかったお気に入りの小説を読んでいたときの、幼い頭の中で。

不思議なこととか、魔法とか、ファンタジーとか。そういうものが、日常と地続きに会った時代に、繰り返し夢想した景色に、とてもよく似ている。いいものと不思議なものでできている感じが。

 

ふらりと入った路地で、ずっと探していたチョコレートのお店に、不意打ちで出会ったり、急な階段を上がった先で、タペストリーを編んでいるおばさまが4人、鉢でしか売っていない花屋の店番をやっていたり。

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飛び込んでくる光景のひとつひとつが、少し不思議で、かすかに物語めいている。

最初はベタなデートのつもりでやってきた街だったけれど、思っていた以上に、本当のところというのが面白く、もう一度、夢うつつがねじれる寒色を楽しみために、スイーツ抜きでもいいからまた来たいなあ、と思ったはじめての自由が丘だった。

今度はどの町の「本当」を確かめに行こう。