風邪ごはん
市販のコーンスープを温めて、それを飲んでもらっている間にマフィンを焼く。小さなフライパンでベーコンをかりかりにし、卵をスクランブルエッグにし、塩コショウで味を整える。
風邪引き用、という朝ごはんではないけれど、どうやら恋人は、風邪引きっぽいごはんをあまり食べたがらない。何度かおじややおかゆを提案して、芳しくない「うーむ」をもらった。
わたしはといえば、リゾットやドリアという元気な"ごはんくたくたもの"はあまり好んで食べないのに、おじややおかゆは好き。風邪を引いたときに、いつものお昼ごはんや晩ごはんとは違う時間に出てくるそう言った「風邪ごはん」は、特別な感じがした。
熱であまり味はしなかったはずなのに、あんな薄味のおじやの卵と出汁の味、おかゆに浮かんだ梅干しのすっぱさが思い出せるのだから面白い。
おそらく、風邪がだいぶ良くなって、それでもまだ大事をとって「風邪ごはん」を作ってもらった時の記憶なのだろう。たぶん、わたしは甘やかされた味が好きなのだ。
そういうわけで、恋人が風邪を引いたとなると、わたしは徹底的に甘やかす。ふだん、忙しさを口実に家事もサボりがちなのが嘘のように、ポカリスエットを飲ませ、水を用意し、汗をふき、いつでも着替えられるよう着替えを用意し、アイスを冷凍庫に常備し、熱を測り、ごはんを作る。
今日は、お鍋を作った。とろとろになった蕪と、しゃくっとした蕪の葉がたくさん入った、野菜スープのようなお鍋。
柔らかな味のスープとは別に、しゃぶしゃぶお肉用の大葉を刻んだタレを作り、ふたりでもりもりと野菜とお肉を食べる。わたしはきりたんぽも食べた。おいしかったけれど、これがこれからも風邪を引いたときのごはん、になるかはまだ未定。
おやすみを台無しにした、と恋人は凹み気味だけれど、わたしは割合と風邪引きの看病というのが好きみたいだ。あれやこれやと、嬉々として、細々とした世話を焼いてしまう。
甘やかされるのは素敵だけれど、際限なく甘やかすことができるということの方がもっと素敵だ。甘やかされた記憶が大人になっても増えるといいな、と思いながら、わたしは恋人の「風邪ごはん」を探している。